中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、自然災害に起因する公費解体等の災害廃棄物処理に関して、以下の事項を求める。

 

  1. 国において、都道府県のみならず、市町村についても災害廃棄物処理計画の策定を義務付けるよう廃棄物の処理及び清掃に関する法律を改正すること
  2. 中国地方における各県において、各市町村に災害廃棄物処理計画を早期に策定するよう促すこと
  3. 中国地方における各市町村において、災害廃棄物処理計画を早期に策定し、公費解体に関する情報発信を災害直後から行うことを災害廃棄物処理計画に規定し、災害発災時には、発災直後から公費解体について情報発信すること
  4. 平成30年7月豪雨災害で半壊以上の被災家屋が発生した各市町村において、公費解体の運用が適切であったかの検証をすること、及び本来であれば公費解体が利用できたはずであるのに自費で家屋の解体を行った被災者がいた場合には、当該被災者に対し、費用償還や補助金交付などを行う条例を制定すること

 

以上のとおり決議する。

 

2021年(令和3年)11月26日
中国地方弁護士大会

提案理由

1 公費解体の適切な実施を目指して

 2021年(令和3年)7月で平成30年7月豪雨(前線及び台風第7号による大雨等(2018年(平成30年)6月28日~同年7月8日))による災害(以下「平成30年7月豪雨災害」という。)の発災から3年を迎えた。

 日本弁護士連合会や各弁護士会連合会及び各弁護士会は全国各地で被災者支援活動を行っている。その経験から、法律上の要件では同じ災害でも被災者生活再建支援法などの支援制度が使える地域と使えない地域があるとの現状や、2019年(令和元年)9月3日に発生した新見市集中豪雨による災害のような局地的災害においての適用がないとの現状に対して、声明等を出して公的支援の拡充を国等に求めている。

 このような中で、平成30年7月豪雨災害において、環境省の災害等廃棄物処理事業費補助金の対象となる公費解体の要件を誤解して、公費解体を実施しなかった中国地方の自治体(以下「公費解体未実施自治体」という。)があった事実が報道された。

 平成30年7月豪雨災害においては、半壊以上の被災家屋であれば公費で解体できる公費解体制度が存在していた。しかし、公費解体制度の対象となる要件を誤解し、半壊以上の被災家屋が自治体内にあるにもかかわらず、公費解体を実施しなかった自治体が中国地方にあったことは非常に遺憾である。

 当連合会も、平成30年7月豪雨災害において、当連合会災害復興支援に関する委員会を中心として、被災者支援を行う各弁護士会間の情報交換や各弁護士会への財政的支援を通じた被災者支援をしてきたが、基本的人権の擁護を使命とする弁護士会の連合会として、法律の適正な執行を監視すべきであるのに、中国地方においてこのような事態を招いたことは、当連合会も支援活動を見つめ直すべきであり、被災自治体との情報共有や、被災者への情報発信に今まで以上に務めることを決意する。

 

2 市町村における災害廃棄物処理計画の策定の実現

(1)公費解体を記載した災害廃棄物処理計画の未策定の市町村がある現状

 何がこのような事態を引き起こした原因なのかを検討していくと、一つの原因が見えてきた。公費解体未実施自治体には災害廃棄物処理計画が定められていなかったことがわかった。

 災害廃棄物処理計画を策定していれば検討段階で公費解体制度について、各自治体で十分な時間を割いて検討されるはずある。

 そうであるならば、その時に公費解体制度の理解をする機会があるといえる。

 このように、災害廃棄物処理計画が策定されていれば、平成30年7月豪雨災害の際のように、公費解体を実施できるのに実施しないという事態は避けられたのではないかと考える。

 法律上、都道府県には、災害廃棄物処理計画を策定することが義務付けられている(廃棄物の処理及び清掃に関する法律第5条の5第2項第5号)が、市町村には義務付けられていない。その結果、災害廃棄物処理計画を定めていない市町村が多く存在している。

 また、災害廃棄物処理計画が定められていても、公費解体についての記載がなく、あるいは公費解体制度についての記載が現在の運用に合致していない市町村も存在する。

 

(2)市町村における適切な災害廃棄物処理計画の策定を実現するために

 以上のような現状を打開するために、国においては、都道府県のみならず、市町村についても、災害廃棄物処理計画の作成を義務付けるよう同法の改正を求める。

 また、各市町村が、災害廃棄物処理計画を策定することは、非常災害時における廃棄物の適正な処理に直結するのであるから、中国地方の各県に対しては、市町村のための災害廃棄物処理計画策定ガイドラインを作成したり、県内の市町村の策定状況や計画内容が分かるような一覧表を県ウェブページで公開したりするなど各市町村に災害廃棄物処理計画を早期に策定するよう促すことを求める。

 加えて、災害廃棄物処理計画を策定していない市町村に対しては、災害廃棄物処理計画を早期に策定するよう求める。そして、災害廃棄物処理計画を策定済みの市町村に対しては、災害廃棄物処理計画における公費解体制度についての記載が現在の運用に合致しているかの確認・検討を求める。

 

3 公費解体に関する情報発信

 ガレキなどの災害廃棄物を処理することから被災地の復興はスタートするにもかかわらず、災害廃棄物の処理の制度について十分に理解している自治体職員は多くない。被災した自治体が、環境省の災害等廃棄物処理事業費補助金を活用して、私有地の土砂混じりガレキについても公費で除去を行う場合が多いのに、災害発生直後、私有地のガレキの除去を求めた被災者に対し「私有地に行政は入れないので、ご自身で行うかボランティアさんに頼んでください。」という対応がなされることも少なくない。

 災害廃棄物の処理の中でも、特に、公費解体制度については実施が発表されるのが、発災から1ヶ月から3ヶ月程度過ぎた頃が多いので(平成30年7月豪雨災害における倉敷市は約1か月後の2018年(平成30年)8月6日に発表)、報道や支援者の数が減り始めたり、被災者や支援者が体力的にも精神的にも厳しくなったりする頃と重なり、被災者に公費解体が実施されることやその内容などの情報が届きにくい状況にある。

 そこで、各市町村に対しては、公費解体を行うことの情報発信を災害直後から行うことを災害廃棄物処理計画に規定し、災害時には、災害直後から公費解体について情報発信することを要望する。

 

4 平成30年7月豪雨災害における公費解体の運用が適切であったかの検証と自費解体を行った被災者を救済する条例の制定

 平成30年7月豪雨災害のような水害による水没被害においては、家屋の柱や屋根が大きな損傷を受けずに残っているため、解体費用も数百万円単位でかかってくる。この費用が自費になるか公費になるかは被災者の生活再建にとって非常に大きな差となってくる。

 しかし、平成30年豪雨災害において、公費解体未実施自治体が存在するとの報道があり、公費解体を実施した自治体内でも、制度周知が不十分で公費解体制度を知らずに自己負担で自宅を解体した被災者がいる可能性もある。

 そこで、平成30年7月豪雨災害により、半壊以上の被害を受けた家屋が発生した中国地方の各市町村においては、各市町村内で適切に公費解体が実施されたか、また、各市町村内で公費解体が利用できるのに利用しなかった被災者がいなかったかの検証を求める。

 そして、各市町村において適切に公費解体が実施されなかった場合や、各市町村内で公費解体が利用できるのに利用しなかった被災者がいた場合には、自費で自宅を解体した被災者を救済するために、費用償還や補助金交付などを行う条例の制定を当該市町村に求める。

 

 以上の理由から、本決議を提案するものである。

以上