中弁連の意見

鳥取県知事      片山 善博 殿
鳥取県議会議長    前田 宏  殿

広島弁護士会  会長 山田 延廣
岡山弁護士会  会長 平松 敏男
山口県弁護士会 会長 若松 敏幸
島根県弁護士会 会長 吾郷 計宜

 

「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」に対する意見書

 

 鳥取県は、昨年10月12日、「鳥取県人権侵害救済推進及び手続に関する条例」(以下、本条例という)を制定した。

 鳥取県弁護士会は、当弁護士会らとともに中国地方弁護士会連合会を構成するものであるところ、同弁護士会は、本条例の制定に先立ち、本条例は憲法違反の可能性がある重大な欠陥を有するため、その成立に反対したうえ、この制定後も、再三にわたって本条例の問題点を指摘して来た。

 しかし、鳥取県は、その後、本条例の問題点を検討しているものの、具体的にこれを改廃するに至っていない。

 当弁護士会らは、所属する各県が鳥取県と同じ中国地方において近接しているため、各県民が本条例の対象となる可能性があること、及び、この条例が有する後記の問題点の重要性を考慮すると、この事態を看過することができない。

 そこで、当弁護士会らは、改めて本条例の問題点を以下のとおり指摘し、全国の地方自治体の中でも、特に「地方自治の本旨」を尊重した行政を実行している鳥取県知事及び同県議会において、本条例を速やかに抜本的に見直すよう求めるものである。

(1)本条例は、人権侵害として取り扱う範囲を限定列挙しているが、その概念自体が曖昧である一方、限定列挙されている範囲が極めて狭いという問題点がある。
 例えば、人権侵害となる行為として、「虐待」「性的言動」「ひぼう・中傷」「著しく粗野又は乱暴な言動」等々が列挙されているが、それらは、漫然とし過ぎており、場合によれば、報道機関の報道や、一般市民、市民団体の発表等が対象とされることにより、表現の自由を侵害し、表現活動を委縮させるおそれがあるし、一方、限定列挙されていることにより、例えば、身柄拘禁施設における人権侵害等公権力の行う人権侵害については、対象外とされる余地も十分にある

(2)また、本条例が、公権力の人権侵害も対象としていると考えたとしても、関係行政機関は、自らの判断で条例上の調査機関の調査協力要請を拒否できるものとされており、公権力の人権侵害に対する十分な救済は期待できないものとなっている。

(3)本条例では、人権侵害救済推進委員会が人権侵害の有無を調査し、対象者に対し、助言、説示、啓発の措置或いは是正の勧告を行うこととされているが、その委員の任命、予算編成、事務局職員の選任、規則の制定等がほとんど知事の権限とされており、委員会自体の独立性が確保されていない。

(4)本条例では、委員会の是正勧告に従わない対象者は、公表されることになっている。対象者に対し、世間に公表されるという不利益を強いることになるのであるが、その場合に、憲法上の要請である法の適正手続(憲法31条)が必ずしも保障されているとは考え難い。即ち、本条例では、一応対象者に弁明の機会は与えられているものの、人権侵害の事実の認定に当たっては、厳格な手続規定も存在しないから、委員会の恣意的偏頗な判断が行われる可能性があり、かつ、これに対する救済規定もない。

(5)本条例に基づく調査対象者は、委員会の調査に対する協力義務があり、正当な理由なく調査を拒んだ場合等には、5万円以下の過料の制裁が課せられることになっている。これは、「何人も自己に不利益な供述を強要されない」と規定する憲法38条1項に違反する可能性がある。

 

 以上、中国地方弁護士会連合会を構成する広島弁護士会、岡山弁護士会、山口県弁護士会及び島根県弁護士会は、連名を以て意見を表明するものである。

以上