中弁連の意見

 日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」「ADR手続において代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求め、そのための運動を推進してきており、その運動により行政書士法改正案が議員立法として今国会に提出される可能性がある。しかし、この改正内容については、日本弁護士連合会が2012年(平成24年)8月10日付けの会長声明の中で、既に問題点を指摘し、改正内容について反対の意見を表明しているところであるが、ことの重大性に鑑み、共同声明を発する。 

 

声明の趣旨

 現時点において行政書士法を改正して、行政書士の業務範囲に不服申立ての代理権等を加える必要性はなく、このような改正を行うことは、国民の権利利益を確保し、これを擁護する手段としては不適切である。

 よって、行政書士に不服申立てやADR手続の代理権を付与する改正には反対する意見を表明する。

 

声明の理由

 改正に反対する主な理由は、以下のとおりである。

 

  1.  行政書士の主たる業務は、行政手続の円滑な実施に寄与することが主目的で、行政庁に対する各種許認可関係の書類の作成・提出が中心であり、その業務ないし職務の性質上、紛争性のない業務が中心である。一方、行政庁の違法・不当な行政処分を是正する行政不服申立て制度や紛争解決制度であるADR手続は、紛争性のある手続であって、その代理人業務とは、業務の内容が本質的に異なっている。
     
  2.  都道府県知事による監督を受ける行政書士が、国民と行政庁の意見が鋭く異なる行政不服申立ての代理をすることは、監督者と対峙することになる。しかし、かかる立場にある行政書士が、真に国民の権利・利益の擁護のために代理人として活動できるのか疑問があり、むしろ不服申立て手続を取ることがためらわれるなどして、国民が、救済の機会を逃して不利益を受ける可能性がある。
     
  3.  行政不服申立てを行うためには、行政訴訟も視野に入れた判断が必要になるが、行政書士には、行政訴訟における高度な専門性と判断に関する能力が担保された状態にはなく、不適切な処理が行われ、国民の権利利益が害されることになる可能性がある。
     
  4.  資格者には、職業倫理に基づく活動が求められるところ、紛争に関わることが主な弁護士の業務においては、当事者の利益が鋭く対立することから、このことを前提とした具体的な内容を持つ弁護士職務基本規程が定められている。ところが、行政書士について定められている倫理綱領は、弁護士職務基本規程とは異なり、国民と行政とのきずなとしての立場からの権利擁護を掲げる抽象的なものとなっている。当事者対立の場面における職業倫理が確立していない者に国民の権利救済を委ねることは問題である。
     
  5.  行政不服申立者の援助をする資格者の確保が十分にできていないという実証的な数値が明確にされているものではなく、また、援助者がいないため不服申立てができなかったという被援助者がどの程度存在しているのかについても明確な数値がなく、行政書士に代理権を付与することが必要であるとの社会的な事実も不明である。さらに、行政書士に不服申立ての代理権を与えてもその活動範囲は限定され、影響が小さいということが代理権を認めることの理由として述べられている。しかし、国民の権利利益自体に関する問題を、活動範囲の大小で計ることが問題であり、こうした中で行政書士に、代理権を付与することは弊害の恐れがあり、国民の信頼を失うことにもなりかねない。

 

 

2014年(平成26年)3月4日

中国地方弁護士会連合会 理事長 小田 清和
広島弁護士会 会長  小野 裕伸
山口県弁護士会 会長  大田 明登
岡山弁護士会 会長  近藤 幸夫
鳥取県弁護士会 会長  杉山 尊生
島根県弁護士会 会長  大野 敏之