中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、国及び各地方公共団体に対し、次の施策の実施を求める。

 

  1.  以下の機能及び設備を有する面会交流に関する専門機関を設置すること及びその設置維持に必要な予算措置を講じること。
    (1)面会交流に関する相談に応じること。
    (2)取決めをするまでの試行的な面会交流や、取決め後の一定期間の面会交流について、連絡調整、子の受渡し、付添等の支援を無償または低廉な費用で行うこと。
    (3)安全に面会交流を行う場所を提供し、または、面会交流を行うに適した公的施設等に関する情報の提供をすること。
    (4)相談、支援を担う人材の育成を行うこと。
    (5)面会交流に関しての適切な情報提供及び周知啓発を行うこと。
     
  2.  以上が実現するまでの暫定的な措置として、以下の施策をとること。
    (1)現在、面会交流支援を行っている民間団体への財政的な援助を行うこと。
    (2)各地方公共団体において、面会交流を行うに適した公的施設等に関する情報の収集と提供を行うこと。

 

以上のとおり決議する。

2018年(平成30年)9月14日

中国地方弁護士大会

提案理由

1 面会交流の重要性

 子どもの権利条約第9条第3項は、「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と定める。同条約は、子どもの成長発達権を保障しており(同第6条第1項、同条第2項)、面会交流にかかる当該条項は、子どもが面会交流の主体であり客体ではないことを明らかにするとともに、「子の最善の利益」に適合する面会交流は、子どもの成長発達権の本質的要請に応える性質を有することを示していると考えることができる。

 2012年(平成24年)4月に施行された改正民法第766条第1項は、「父母が協議の上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、・・・について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」、同条第2項は、「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める」と定め、面会交流を明文化し、父母が子の利益に配慮しつつ面会交流について協議することを促した。

 

2 面会交流の実情

(1)取り決めについて
 面会交流の調停や審判を申立てる件数は年々増加しており、2015年(平成27年)には、調停申立てが1万2263件、審判申立てが1997件と、2011年(平成23年)に比べ、いずれも40%を超える増となっている(2011年(平成23年)、2016年(平成28年)司法統計)。また、平成28年司法統計によれば、調停事件について既済(調停終了)1万1696件のうち調停成立が6779件(既済事件の58.0%)、審判事件について既済(審判終了)1834件のうち認容874件(既済事件の47.7%)であり、調停や審判を経ても面会交流を定めることができないケースも数多い。
 2011年(平成23年)の厚生労働省「全国母子世帯等調査結果報告」によれば、面会交流の取り決めをしている母子世帯は23.4%、父子世帯は16.3%であり、面会交流の取り決めをしている割合は低い。2012年(平成24年)4月には、面会交流の重要性にかんがみ、協議離婚の届出書に面会交流の取り決めのチェック欄が設けられたが、2016年(平成28年)の同調査によれば、面会交流の取り決めをしている母子世帯は24.1%、父子世帯は27.3%と増加しているものの、依然としてその割合は低い。
面会交流の取り決めをしていない最も大きな理由については、同調査によれば、母子世帯の母では「相手とかかわりたくない」(25.0%)が最も多く、次いで「取り決めをしなくても交流ができる」(18.9%)となっており、父子世帯の父では、「取り決めをしなくても交流できる」(29.1%)が最も多く、次いで「相手とかかわりたくない」(18.4%)となっている。
 また、同調査によれば、母子世帯の母が、離婚の際又はその後、面会交流の関係で相談した相手は、34.7%、父子世帯の父では30.8%、相談相手としてはいずれも「親族」が最も多く、母子世帯の母では50.8%、父子世帯の父では37.9%となっている。

(2)実施状況について
 同調査によれば、母子世帯の母の面会交流の実施状況は、面会交流を「現在も行っている」が29.8%、「過去に行ったことがある」が19.1%、「行ったことがない」が46.3%であり、うち、面会交流の取り決めをしている世帯では、面会交流を「現在も行っている」が53.1%、「過去に行ったことがある」が22.4%、「行ったことがない」が23.8%となっている。父子世帯の父の面会交流では、面会交流を「現在も行っている」が45.5%、「過去に行ったことがある」が16.2%、「行ったことがない」が32.8%であり、うち、面会交流の取り決めをしている世帯では、面会交流を「現在も行っている」が59.5%、「過去に行ったことがある」が14.3%、「行ったことがない」が23.8%となっている。

 

3 面会交流に関する支援の必要性及び支援の具体的な内容

(1)支援の必要性
 面会交流は、父母が、子どもの利益に配慮しつつ協議し、取り決めをして、実施していかなければならない。夫婦やパートナー関係を継続させるか否かの協議中、また解消後も、子どもの父母としての立場から、子どもの利益に配慮して面会交流に関して協議し、取り決めをして、実施していくことは、父母の葛藤の程度に関わらず、簡単なことではなく、面会交流の取り決めや実施に関しては、専門家の支援が必要である。以下、具体的に専門家によるどのような支援が必要であるかについて述べる。

 

(2)相談に応じること
 上記2のとおり、面会交流の問題に直面する当事者の相談相手として、親族がしめる割合が最も多く、当事者が面会交流に関する知識・情報にアクセスできる環境が不十分であるといえる。また、事案によってその度合いは異なるものの、面会交流実施について葛藤のある父母が一定割合いるが、面会交流の取り決めの可否やその内容について判断できるだけの知識・情報にアクセスし、面会交流の専門機関に相談できる環境整備が必要である。

 

(3)試行的な面会交流や面会交流の連絡調整、子の受渡し、付添等の支援を無償又は低廉な費用で行うこと
面会交流の取り決めをしていない父母らの理由として、「相手とかかわりたくない」という理由が一定割合ある。面会交流の実施にあたり、日程調整のための連絡を直接取り合うことに負担を感じる当事者も多い。子どもと非監護親との面会交流の実施そのものに特段問題がない場合であっても、具体的な面会交流のイメージが掴めず、実施のための連絡調整等の負担を考え、面会交流の取り決めがなされないケースや、取り決めがなされた場合であっても面会交流が実施されないケースがある。このような場合には、第三者機関が、取り決めをするまでの試行的な面会交流や、取り決め後の一定期間の面会交流について、その実施のための連絡調整や子の受渡し、付添等の支援を行うことで、面会交流の取り決め及び実施が円滑に可能となると考えられ、かかる支援を適切に行い得る専門機関の設置が必要である。
なお、専門機関による相談等の支援を受けるにあたっては、その費用負担が問題となる。母子世帯や父子世帯の中には、経済的に困窮している世帯もあるが、面会交流は継続的な実施が想定されており、費用負担が、専門機関の支援を受けることの支援の妨げとなってはならない。そのため、費用負担は、無料または低廉な費用となるよう配慮が必要である。

 

(4)面会交流を行う場所を提供し、又は面会交流を行うに適した公的施設等に関する情報提供をすること
面会交流を実施にするにあたり、面会交流の実施場所の確保が必要となる。子どもの発達段階や安全面を考慮した面会交流に適した場所の情報提供をしたり、面会交流に適した場所そのものを提供したりすることが必要となる。

 

(5)人材育成を行うこと
面会交流の支援にあたっては、子どもの発達段階や安全面への配慮、葛藤がある父母への連絡調整等の対応など、専門的な知識や技能が必要となる。そのため、専門機関によって適切な支援がなされるためには、相談や支援を担う人材の育成が必要不可欠である。

 

(6)適切な情報提供、周知啓発を行うこと
面会交流に関し、適切な支援が行き届くためには、面会交流に関する適切な情報提供が、当事者のみならず、広く一般に対してなされなければならない。そのためには、専門機関による面会交流に関する適切な情報提供に加え、例えば、母子・父子自立支援員や民生委員等に対する研修等により、周知啓発を行うことが必要である。

 

4 支援団体等取組について 

(1)公的支援について
 面会交流に対する支援は、当事者が平等に受けられるよう、原則として公的支援によるべきである。現時点における、面会交流に対する公的な支援の一つとして、厚生労働省が実施する「母子家庭等就業・自立支援センター事業」中の「面会交流支援事業」がある。面会交流支援事業は、都道府県、市、福祉事務所設置町村が事業実施主体となり、円滑な面会交流に向けた支援を行う場合に、国がその活動費の補助を行うものである。当該事業を利用して、熊本県では、社会福祉法人熊本県母子寡婦福祉連合会に面会交流支援事業を委託し、子どもの受渡し場所として市役所の駐車場を利用したり、市町村の広報誌に事業を掲載して周知をしたりした例が報告されている。明石市では、FPIC大阪ファミリー相談室の相談員による相談を市役所で開催したり、離婚や別居後に離れて暮らす親子間の交流を深めるための場所として、市立天文科学館を無料で利用したり、イベントの優先予約を認めたりするなどの面会交流支援事業を行っている。また、離婚前後における親子の交流を深めてもらうために、面会交流における子どもの引き合わせや連絡調整に対する支援を試行的に実施するなどの面会交流のサポートを行っている。

 

(2)現在の公的支援では不十分であること
 面会交流に関する公的支援に関し、国会の附帯決議(2011年(平成23年)4月26日衆議院法務委員会)では、「5 離婚後の面会交流及び養育費の支払い等については、児童の権利利益を擁護する観点から、離婚の際に取決めが行われるよう、明文化された趣旨の周知に努めること。また、その継続的な履行を確保するため、面会交流の場の確保、仲介支援団体等の関係者に対する支援、履行状況に関する統計・調査研究の実施など、必要な措置を講ずること。」また、同(2011年(平成23年)5月26日参議院法務委員会)「11 離婚後の面会交流及び養育費の支払い等について、児童の権利利益を擁護する観点から、離婚の際に取決めが行われるように明文化された趣旨の周知に努めるとともに、面会交流の円滑な実現及び継続的な養育費支払い等の履行を確保するための制度の検討、履行状況に関する統計・調査研究の実施等、必要な措置を講ずること。」とされている。
 しかし、国及び地方公共団体が実施する面会交流支援事業においては、支援対象者が「同居親が児童扶養手当の支給を受けており、かつ別居親が児童扶養手当の支給を受けている者と同様の所得水準にあること」といった要件が設けられており、支援を受けられる者が限定されている。各都道府県に置かれている母子家庭等就業・自立支援センター事業の実施団体は、面会交流に関する支援を行うに十分な機能を備えているものは少なく、実際に、面会交流支援事業を行っている団体はわずかである。
 面会交流に関する支援は、相談、試行的面会交流、面会交流実施のための連絡調整、受渡し等、継続的な支援が必要となることや、子どもの発達段階に応じて、面会交流支援の具体的内容も変化してくる等といった特殊性がある。
現在、国や各地方公共団体が実施している面会交流に関する支援は、附帯決議の内容を実現し、面会交流に関する支援の特殊性に配慮したものとはいえず、不十分であり、面会交流に関する支援を行うに適した専門機関の設置が必要である。

 

(3)民間の面会交流支援団体による支援について
 現時点において、中国地方には、公益社団法人家庭問題情報センター(通称FPIC、広島市、松江市)、マリッジカウンセリングゆりはま(鳥取県東伯郡湯梨浜町)、NPO法人こどもステーション(福山市)、NPO法人岡山家族支援センターみらい(岡山市)、あうモード・クリエイト(山口市)といった面会交流支援団体がある。
 面会交流支援団体フォーラム2015においては、面会親と監護親とが顔を合わせないように駐車場や出入り口等の工夫が必要となるが、そのための設備や費用の問題があることや、支援者や予算の確保に苦慮している点が報告されている。面会交流支援団体による支援についても、財政面、設備面、人材面において十分ではない。

 

5 まとめ

 現状において、一部地方公共団体において、面会交流支援事業が実施されているものの、その支援の体制、内容は不十分である。また、面会交流の支援を行う民間の支援団体は存在するものの、その数は少なく、また、アクセスが可能な地域も限定されており、面会交流支援が必要な世帯数や地域を網羅する状況にはない。支援団体は、予算面、設備面、人材確保の点において、それぞれ課題を抱えており、面会交流支援を民間の支援団体のみに任せていては、面会交流の円滑な実施が実現されない。従って、面会交流支援のための専門機関を、国や各地方公共団体が設置し、その設置維持に必要な予算措置を講じ、また、これが実現するまでの暫定的な措置として既存の支援団体への財政的な援助等が必要となる。

以上の理由から、本決議を提案するものである。

以上