中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、国に対し、夫婦同姓の強制を定める民法第750条を改正し、希望する者は婚姻前の姓を保持したまま婚姻することができる選択的夫婦別姓制度をすみやかに導入することを求めることを決議する。

 

2023年(令和5年)10月27日

中国地方弁護士大会

提 案 理 由

 

第1 はじめに

民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めて夫婦同姓[1]を強制しており、婚姻後も婚姻前の姓を称することを希望する夫婦の婚姻を認めていない。2021年(令和3年)6月23日の最高裁判所大法廷決定(以下「2021年最高裁決定」という。)では、2015年(平成27年)12月16日の最高裁判所大法廷判決に続き、民法第750条を合憲とする判断を示した。しかし、これらの最高裁判所大法廷の判断は、選択的夫婦別姓制度に合理性がないとまで判断したものではなく、夫婦の姓に関する制度の在り方は、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と判示しているにすぎない。1996年(平成8年)に法制審議会が選択的夫婦別姓制度を導入する民法改正要綱試案を答申してから四半世紀が経過しており、この間の国内外の議論状況や世論調査の結果等をみても、選択的夫婦別姓制度を導入すべきであり、夫婦同姓の強制を定める民法第750条を改正し、希望する者は婚姻前の姓を保持したまま婚姻することができる選択的夫婦別姓制度をすみやかに導入することを求めるものである。

 

第2 民法第750条は憲法上の権利を侵害し、国際条約にも反すること

1 人格権侵害

氏名は、「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」(最判昭和63年2月16日)ものであり、その意に反して「氏名の変更を強制されない自由」もまた、人格権の重要な一内容として憲法第13条によって保障されるというべきである。

したがって、夫婦同姓の強制を定める民法第750条は、婚姻に際して姓を変更したくない者にその意に反して改姓を強制するものであり、人格権を侵害し憲法第13条に違反する。

民法第750条を合憲とする2021年最高裁決定においても、宮崎・宇賀両裁判官は、反対意見の中で、「氏名に関する人格的利益は、・・・人格権に含まれるものであり、個人の尊重、個人の尊厳の基盤を成す個人の人格の一内容にかかわる権利であるから、憲法第13条により保障される」と指摘している。

 

2 法の下の平等

憲法第14条は、法の下の平等を定め、事柄の性質に応じた合理的根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止している(最大判昭和39年5月27日)。

民法第750条と戸籍法第74条により、婚姻の際には夫婦が称する姓を定めなければ婚姻届が受理されず、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦になろうとする者は、婚姻ができないことになる。この点において、婚姻に際して姓を変更し夫婦同姓となろうとする者と、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦別姓になろうとする者との間には差別的取扱いがある。

婚姻に際して姓を変更し夫婦同姓となるか、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦別姓となるかは、夫婦のあり方を含む個人としての生き方に大きくかかわる問題であり、これについての個人の思いは、憲法第14条第1項後段の「信条」に該当する。

このような信条による差別的取扱いが合理的な根拠に基づくか否かは、厳格に判断されるべきであるところ、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦別姓になることを信条とする者は、夫婦同姓を強制する現行制度の下では、自己の信条に反して姓を変更し、夫婦同姓となる以外に選択肢がない。自己にとって重要な人格権としての姓に関わる信条と、同じく人生における幸福追求の一内容というべき婚姻するか否かの二者択一の選択を迫られるという意味で、信条による差別的取扱いとして合理的な根拠があるとはいえない。

したがって、民法第750条は、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦別姓となることを信条とする者に対し、その意思に反して夫婦同姓を強制するものであり、婚姻の自由を大きく制限するため、憲法第14条の法の下の平等に反する。

 

3 婚姻の自由及び個人の尊厳と両性の本質的平等

憲法第24条第1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とし、同条第2項は、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」として、婚姻における個人の尊厳と両性の本質的平等を定める。

前記第2の1のとおり、人の氏名は「人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」ものであり、個人の尊厳に直結する。また、上述のとおり、憲法第24条第2項は、家族に関する事項を定めた法律が個人の尊厳と両性の平等に立脚することを要請している。

民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定め、夫又は妻のいずれの姓でもよいとしている。しかし、実際には、95%の夫婦において女性が改姓している(2021年(令和3年)厚生労働省人口動態調査)。これは、女性は男性の家に嫁ぎその家の姓を称するものだという家父長的な家族観や婚姻観がいまだ国民の意識の中に持続し、事実上、女性に改姓を強制している結果であり、決して夫婦の自由で対等な話し合いによる合意に基づく結果ではない。

したがって、夫婦同姓を強制する民法第750条は、憲法第24条第1項及び第2項に違反する。

2021年最高裁決定においても、三浦裁判官は、「婚姻という個人の幸福追求に関し重要な意義を有する意思決定について、二人のうち一人が、重要な人格的利益を放棄することを要件として、その例外を許さないことは、個人の尊厳の要請に照らし、自由な意思決定に対し実質的な制約を課すものといわざるを得ない」とし、旧民法の家制度は廃止されたものの「男系の氏の維持、継続という意識を払拭するには至ら」ず、「夫婦同氏制は、現実の問題として明らかに女性に不利益を与える効果を伴っており、両性の実質的平等という点で著しい不均衡が生じている。婚姻の際に氏の変更を望まない女性にとって、婚姻の自由の制約は、より強制に近い負担となっているといわざるを得ない」と指摘し、他の裁判官3名も含め、民法第750条は憲法第24条第1項及び第2項に違反するとしている。

 

4 女性差別撤廃条約

女性差別撤廃条約(1979年(昭和54年)採択、1985年(昭和60年)批准)は、第16条第1項(g)において、婚姻及び家族関係における差別の撤廃を締約国に義務付け、撤廃すべき具体的な差別として、「夫 及び妻の同一の個人的権利(姓及び職業を選択する権利を含む。)」と明記している。

また、国連女性差別撤廃委員会は、1994年(平成6年)に採択した一般勧告21において、「各パートナーは、共同体における個性及びアイデンティティーを保持し、社会の他の構成員と自己を区別するために、自己の姓を選択する権利を有するべきであ」り、「法もしくは慣習により、婚姻もしくはその解消に際して自己の姓の変更を強制される場合には、女性はこれらの権利を否定されている」と述べた。

そして、同委員会は、日本政府に対し、2003年(平成15年)、2009年(平成21年)、2016年(平成28年)の3回にわたり、夫婦同姓を強制する現行制度について勧告を発出し、2018年(平成30年)には、「既婚女性が婚姻前の姓を保持することを可能にする法整備を行うこと」について、書面による情報を提供するよう日本政府に要請している。

このように、夫婦同姓を強制する民法第750条は、婚姻前の姓を保持する選択をする権利を侵害し、女性差別撤廃条約に違反する。

 

5 自由権規約

自由権規約(1966年(昭和41年)採択、1979年(昭和54年)批准)は、第3条において規約上の権利の享有に関する男女の同等の権利を規定し、第23条第4項において婚姻中及び婚姻の解消の際における配偶者の権利の平等について規定する。

国連自由権規約委員会は、1990年(平成2年)には、第23条(家族)に関する一般的意見19において、「7婚姻に係る平等に関し、・・・各配偶者が自己の婚姻前の姓の使用を保持する権利又は平等の基礎において新しい姓の選択に参加する権利は保障されるべきである」とし、2000年(平成12年)には、第3条(両性の平等)に関する一般的意見28において、「第23条第4項の義務を果たすために、締約国は・・・夫妻の婚姻前の氏の使用を保持し、又は新しい氏を選択する場合に対等の立場で決定する配偶者各自の権利に関して性別の違いに基づく差別が起きないことを確実にしなければならない」とした。

このように、夫婦同姓を強制する民法第750条は、自由権規約にも違反する。

 

第3 諸外国の状況

諸外国においては、夫婦同姓か夫婦別姓かを選択できる制度や夫婦別姓を原則とする制度であり、法務省が把握する限りにおいては、婚姻後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならないとする制度を採用している国は日本だけである。

 

第4 世論の動向等

1 地方議会の決議

全国373議会(中国地方19議会)(2023年(令和5年)7月11日現在の採択累計数)で選択的夫婦別姓制度の導入を求める意見書が採択されており、選択的夫婦別姓制度の導入を求める地方議会の決議が急速に増えている。戸籍事務をはじめとする住民の身近な行政サービスの担い手である地方公共団体の議会において、こうした動きが顕著となっていることは、選択的夫婦別姓制度に対する市民の理解が進んでいることを示しているといえる。

 

2 世論調査等

2017年(平成29年)に内閣府が実施した「家族の法制に関する世論調査」(以下「2017年世論調査」という。)では、選択的夫婦別姓制度の導入に対する考え方に関する設問について、「婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない」として選択的夫婦別姓制度に反対する回答は29.3%、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない」とする回答は42.5%で、「夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない」とする回答は24.4%であった。

2021年(令和3年)に実施した同調査(以下「2021年世論調査」という。)では、夫婦の名字のあり方に関する設問について、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した方がよい」とする回答は27.0%、「現在の制度である夫婦同姓制度を維持した上で、旧姓の通称使用についての法制度を設けた方がよい」とする回答は42.2%、「選択的夫婦別姓制度を導入した方がよい」とする回答は28.9%であった。

上記の2017年世論調査と2021年世論調査は、設問や調査方法が異なるため、単純に比較することはできないものの、婚姻後も婚姻前の姓を名乗りたいと希望する者の意向を尊重する法制度の導入を容認する意見が過半数を占めているといえる。

また、上記世論調査結果は、いずれも、全体の回答数に占める60歳以上の者の回答数が45%を超えており、60歳未満の者を対象として2020年(令和2年)に実施された、早稲田大学法学部・棚村政行研究室/選択的夫婦別姓・全国陳情アクション合同調査「47都道府県『選択的夫婦別姓』意識調査」では、回答の選択肢を選択的夫婦別姓制度の賛否の2択で質問した結果、選択的夫婦別姓制度に賛成する回答は70.6%、反対する回答は14.4%であり、60歳未満の世代(回答者の平均値44.5)においては、選択的夫婦別姓制度に賛成する意見が多数を占めるという結果が表れている。

さらに、2021年(令和3年)に各新聞社等が実施した選択的夫婦別姓制度の賛否を問う世論調査の結果は、日本経済新聞社調べ及び朝日新聞社調べで「賛成」が67%、「反対」が26%、共同通信社調べで「賛成」が60%、「反対」が38%であった。

このように、各種世論調査の結果をみても、選択的夫婦別姓制度の導入が求められているといえる。

 

第5 選択的夫婦別姓制度導入に対する反対意見について

前記世論調査等にも表れているとおり、選択的夫婦別姓制度に対し、消極的な意見が一定割合存在していることから、選択的夫婦別姓制度の導入に対する反対意見にも留意しつつ議論を進める必要がある。これについて、法務省[2]によれば、選択的夫婦別姓制度の導入に反対する意見の中には、(1)夫婦同姓が日本社会に定着した制度であること、(2)姓は個人の自由の問題ではなく、公的制度の問題であること、(3)家族が同姓となることで夫婦・家族の一体感が生まれ、子の利益にも資することなどを理由とするものがあるようである。

まず、上記(1)の夫婦同姓が日本社会に定着している制度であるという点については、それだけでは選択的夫婦別姓制度に反対する理由にならないというべきである。制度の妥当性は、その制度が社会に定着しているかどうかだけでなく、制度内容自体が合理的であるかどうかが、時代の変化に適合した視点から検討を加えられ判断されなければならない。このような検討の途を閉ざせば、社会の中で形成された固定観念を無自覚に追認することになりかねないからである。

次に、上記(2)については、姓は氏名の一部であり、最高裁が、人の氏名は「個人の人格の象徴である」(最判平成24年2月2日)としているように、氏名が人格権の一内容を構成するのであれば、姓もまた個人の重要な権利に関わる問題であるといえる。もっとも、社会において姓が果たしている役割や機能に鑑みると、姓のあり方には公的制度の側面もあることは確かである。それゆえ、個人の権利として夫婦別姓の選択を認めるとしても、別姓の選択が家族や社会に与える影響を考慮し、対処方法を検討しなければならない。その一つとして、別姓の夫婦間に生まれた子どもの姓をどのように決定するかという問題がある。この点、前記民法改正要綱試案では、婚姻の際に夫又は妻の姓を子の姓として定めることにより、子の姓の統一を図ることとしている。このように、選択的夫婦別姓制度の導入を検討することは、姓が持つ公的制度の側面を無視することにはならない。

さらに、上記(3)について、夫婦・家族にいかなる一体感やきずなを育むか、子の利益をいかにして図るかは、夫婦・家族それぞれの価値観や考え方によって異なるのが自然であり、決して一様一律に論ずべきものではない。加えて、選択的夫婦別姓制度は、婚姻に際し、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦別姓となろうとする者にも婚姻を認めようとする制度にすぎない。従前どおり、姓を変更し夫婦同姓となろうとする者の婚姻を何ら制限するものではない。また、2021年世論調査において、「あなたは、夫婦・親子の名字・姓が違うことによる、夫婦を中心とする家族の一体感・きずなへの影響の有無について、どのように思いますか」との問いに対し、61.6%の者が「家族の一体感・きずなには影響がないと思う」と回答しており、半数以上の者は、夫婦別姓と家族の一体感・きずなの影響を憂慮してはいない。

このように、反対意見の存在やその内容は、選択的夫婦別姓制度を採用するにあたり障害となるものではない。

 

第6 通称使用の限界

ところで、婚姻に伴い姓を変更することで生じる日常の社会生活上の不利益を解消するため、戸籍上は配偶者の姓に変更している場合であっても、旧姓(婚姻前の姓)を通称として使用する例が増えてきている。選択的夫婦別姓制度に対し消極的な立場からは、通称として旧姓を使用することが一般化しており、婚姻に際し姓を変更しても、関係者知人に告知することにより何の問題も生じないとの意見も聞かれるところである。

しかし、そもそも、民法第750条による夫婦同姓の強制は、婚姻に際し、婚姻前の姓を互いに保持したまま夫婦別姓となろうとする者の憲法上の権利を侵害し、国際条約にも反するものであり、通称使用により日常の社会生活上の不利益を減少させるという対症療法的な対応で済む問題ではない。

2021年最高裁決定の反対意見においても、「旧姓の通称使用は、婚姻によって氏を変更した当事者が有する生来の氏名に関する人格的利益の喪失とそれによる不利益を一定程度のみ解消させるものでしかなく、旧姓の通称使用が拡大したとしても公的な証明を必要とする場合は残るから、旧姓の通称使用ができることは決して夫婦同氏制の合理性の根拠になるものではな」く、「旧姓の通称使用とは、実態としては婚姻した女性にダブルネームを認めるのと同じであるところ、旧姓を使用する本人にとっては、ダブルネームである限り人格的利益の喪失がなかったことになるわけではないから、氏の変更によって生じた本質的な問題が解決されるわけではなく、かつダブルネームを使い分ける負担の増加という問題が新たに生ずる」との指摘が、宮崎・宇賀両裁判官からなされている。

実際に、通称使用によっても、戸籍名の銀行口座を使用する場合には、旧姓しか知らない関係者に都度説明が必要となり、また、戸籍名と旧姓の二つの印鑑を用意する必要があるなどの不便や不都合がある。また、職務上の氏名を使用する弁護士からも、職務上の氏名により銀行口座を開設することができないなどの不都合があるとの声があがっている。

したがって、通称使用には限界があり、通称使用が普及し一般化したとしても、選択的夫婦別姓制度の代替にはならない。

 

第7 結語

以上のとおりであり、当連合会は、国に対し、夫婦同姓の強制を定める民法第750条を改正し、希望する者は婚姻前の姓を保持したまま婚姻することができる選択的夫婦別姓制度をすみやかに導入することを求める次第である。

以上

 

[1] 「姓」「氏」の表記について、法律や判決においては「氏」と表記し、「夫婦同氏」、「夫婦別氏」とするが、一般的には「姓」と表記され、「夫婦同姓」、「夫婦別姓」と呼称されていることから、法令や判決等を引用する場合を除き、「姓」と表記し、「夫婦同姓」、「夫婦別姓」とする。

[2]法務省HP「選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」 

URL: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html