中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、中国地方における包括外部監査制度の一層の活用のため、

1 包括外部監査制度未導入の地方公共団体において、同制度を導入すること

2 包括外部監査実施に当たっては、包括外部監査人として弁護士を積極的に選任すること

3 包括外部監査人は、補助者の一部に他業種の者を加えるよう努めること

をそれぞれ求める。

 

以上のとおり決議する。

 

2025年(令和7年)10月31日

中国地方弁護士大会

提案理由

 

1 包括外部監査制度について

包括外部監査は、地方公共団体と包括外部監査契約を締結した包括外部監査人が、期間内(会計年度)に、「包括外部監査対象団体(地方公共団体)の財務に関する事務の執行及び包括外部監査対象団体の経営に係る事業の管理」について、自由にテーマを設定して行う監査制度である(地方自治法第252条の37第1項)。

1997年(平成9年)2月24日付けでなされた地方制度調査会の「監査制度の改革に関する答申」に基づき、同年の地方自治法改正により、監査委員監査の不十分さを補う目的で包括外部監査制度が導入された。

2 政令指定都市・中核市ではない中国地方の市町村に対する制度導入の提案

(1)包括外部監査制度に係る制度設計は、①都道府県(中国地方5県)及び市町村のうち②政令指定都市(中国地方では、広島市及び岡山市の2市)並びに③中核市(中国地方では、鳥取市、倉敷市、呉市、福山市、下関市及び松江市の6市)については実施を義務付けるとともに、それ以外の地方公共団体においては、条例において任意に導入することが可能というものである。

もっとも、中国地方の市町村のうち、政令指定都市及び中核市を除く市町村で、包括外部監査制度を条例で任意に導入しているものは皆無である。

(2)包括外部監査制度は、地方公共団体の外部にある者が監査を行い、当該地方公共団体の様々な事情により内部からは指摘されにくく改善が困難な事務事業について指摘することにより、改善が促進されるという効果を期待して創設されたものである(総務省に設置された「地方公共団体の監査制度に関する研究会」による、2013年(平成25年)3月7日付け報告書)。

地方公共団体が、限られた財源の中で住民に対するサービスを継続的かつ効果的に提供していくために、包括外部監査制度の導入は有益であると考えられる。また、法の支配の理念の下、地方公共団体の行政活動が法の趣旨に適ったものにしていく上でも包括外部監査制度の導入には大きなメリットがある。そのような観点から、今後、包括外部監査制度未導入の地方公共団体は条例を制定して同制度を導入することを検討しなければならない。

(3)包括外部監査制度を任意に導入することの障壁としては、毎年包括外部監査制度を実施することとした場合のコストが考えられる。

ただ、この点については、前述の研究会報告書の提言を受けて実施された2017年(平成29年)の地方自治法一部改正によって、「条例で定める会計年度において」包括外部監査を実施できるようになった(改正後の地方自治法第252条の36第2項)。そのため、条例の定めを工夫すれば、包括外部監査を必ずしも毎年実施する必要はなく、柔軟な形で導入することも可能となり、コスト問題の解決に繋がる(例えば、東京都港区は2年に1度の実施としている。)。

3 包括外部監査人又は補助者として弁護士を積極的に選任することの提言

(1)包括外部監査人又は補助者を務めることのできる者について、地方自治法第252条の28に資格要件が定められているところ、冒頭に挙げられているのが「弁護士」である(同条第1項第1号)。

(2)包括外部監査の対象は、地方自治法第252条の37第1項に掲げる特定の事件である。

そして、包括外部監査人は、①適法性(合規性)及び②3E(経済性:より少ないコストで目的達成できないか、効率性:同等の費用でより多くの効果を得られないか、有効性:行政活動が、所期の目的との関係で効果を上げているか)の観点から監査することが求められている。

(3)法律の専門家である弁護士は、特に適法性(合規性)の観点から実効的な監査を行うことが期待されている。

包括外部監査人が監査意見を述べるに当たっては、その前提としての事実認定が重要であるところ、証拠から一定の事実関係を確定し、法を適用することに職務として慣れ親しんでいる弁護士は、事実認定の側面でも寄与することが可能である。

また、監査資料・監査報告書は大部なものになりがちであるが、日頃から裁判関係その他の業務で膨大な量の資料に接し、書面の作成に精通している弁護士が、その能力を発揮することが可能である。

(4)なお、弁護士は財務・会計の直接的な専門家ではないが、破産管財事件・企業再生事件など財務・会計に関する一定の知識を求められる領域で活動しており、弁護士による包括外部監査もこれらの活動と類似するものといえる。

(5)包括外部監査は、包括外部監査人と補助者から構成される複数人によるチームによって実施されることから「多職種連携」が可能であり、弁護士が有する上記の専門性を活かして寄与できる面は大きい。

(6)1997年(平成9年)の地方自治法の一部改正において、立法者は「弁護士」という専門家が包括外部監査の担い手の一翼を担うことを期待したと考えられるが、弁護士が、包括外部監査人に選任されているのが全体の17%程度である現状(2024年版弁護士白書参照)からみれば、「弁護士」は、前述の立法者の期待に十分応える機会を与えられていない。

当連合会としては、中国地方の各弁護士会が日本弁護士連合会(自治体等連携センター)と連携し、包括外部監査の担い手たる弁護士育成の取組みを行っていることに鑑み、包括外部監査実施に当たっては、包括外部監査人又は補助者として弁護士が積極的に選任されるべきであると考える。

 

以上の理由から、本決議を提案するものである。

 

以上