中弁連の意見

議  題

山口県弁護士会

国選弁護人の複数(追加)選任につきより
一層柔軟かつ積極的な対応を求める議題

 

 裁判所は、国選弁護人から、複数(追加)の国選弁護人の選任を求める旨の申出があったときは、より一層柔軟かつ積極的な対応をするよう、また国は、そのために必要な予算措置を講ずるよう、求める。

提案理由

1 日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は、2007年(平成19年)7月6日付にて「国選弁護人の複数選任について(要望)」と題する書面(以下「要望書」という。日弁連法2第58号)により、最高裁判所(以下「最高裁」という)に対し、01.gif被告人国選弁護の場合、02.gif被疑者国選弁護の場合、03.gif被疑者段階で選任された支部所在地の弁護人にとって受訴裁判所等が遠隔地となった場合、の3つの場合に分けて、国選弁護人の複数(追加)選任の必要性を訴え、複数(追加)選任につき柔軟に対応するよう要望した。そして、これに対し、最高裁は平成19年7月26日付内簡文書(訴ろ-06)にて各地方裁判所長に対し、日弁連の上記要望書に記載された事情があるような事件においては、「国選弁護人を複数選任することが適切であると考えられる場合も少なくないと思われます。」と通知している。また、日本司法支援センター(以下「法テラス」という)は、要望書を受けての最高裁からの求意見に対し、同月20日付書面にて複数の国選弁護人を選任することは充実した弁護活動を提供できる態勢を確保するため有効な手段であり、「複数選任が迅速かつ確実に行われるよう態勢整備に努めたい」と回答している。

 また、今年に入ってからの各地の実情からすると、公判前整理手続に付せられた事件では、国選弁護人の複数(追加)選任が多く認められているようである。
 この点、裁判所及び法テラスにおいて、従前よりも柔軟な対応がなされているものと言え、一定の評価をすることができる。

 しかし、以下に述べる事情を考慮すれば、国選弁護人の複数(追加)選任について、なお一層柔軟かつ積極的な対応がなされるべきであり、この旨改めて求めるものである。

 

2 まず、01.gif被告人国選弁護の場合であるが、公判前整理手続に付せられた場合、短期間に集中的な弁護活動が必要となることは言うまでもない。これは、裁判員裁判対象事件という重大事件に限定されたことではなく、公判前整理手続となれば、弁護人は一連の証拠開示請求や予定主張明示などの諸手続を短期間に次々と対応しなければならず、しかも、その後は原則として新たな主張や証拠提出はできないのだから、まさに息の抜けない手続となるのである。もちろん、要望書の指摘のとおり、裁判員裁判対象事件で、かつ、公判が連日的あるいは集中的に開かれる事件では、さらに弁護人の負担は大きくなるのであり、また裁判員制度導入後は、さらに弁護人の負担は大きくなるのであるが、公判前整理手続に付されただけでも、上記のとおり、すでに弁護人の負担は激甚なものなのである。要するに、当該事件が公判前整理手続に付された場合は、それだけで弁護活動は大きな負担となることは、十分に理解されねばならない。
したがって、国選弁護人から裁判所に対し複数(追加)の国選弁護人の選任を求める旨の申出があったときは、原則として複数(追加)選任とするとの取扱が徹底されるべきである。現に、これまでも、国選弁護人が繰り返し複数(追加)選任を要望したにもかかわらず、裁判所が頑なにこれを認めなかった例もあるのである。

 そして、このことは、新しく導入された公判前整理手続を、できるだけ多くの弁護士に経験させて、同手続の習熟を図ることによって、来るべき裁判員裁判のスムーズな実施を実現させることに繋がるのであって、その点においても極めて重要なことなのである。
なお、要望書では、公判前整理手続に付せられた事件等で、かつ、以下のアないしエのいずれか、又はこれらに準ずる事情がある場合には、複数の国選弁護人で対応する必要がある、とされている。

 

ア 事件の内容が複雑困難で、事実関係の把握、分析、検討その他必要な弁護活動が特に過重負担となることが想定されるとき

イ 被告人が公訴事実を否認しており、事実関係の把握、分析、検討、被告人との打合せ、公判対策その他必要な弁護活動が特に過重負担となることが想定されるとき

ウ 被告人の性格・態度・属性等が特殊であり、弁護人が被告人と意思疎通を図ることが困難であることなど、弁護活動を進める上で大きな支障が想定されるとき

エ 社会的注目度が特に高く、マスコミ対策など本来の弁護活動以外に特段の対応・配慮が必要となることが想定されるとき

 

 しかし、これらアないしエのいずれかの事情(または準ずる事情)があれば、それだけで複数の国選弁護人が選任されるべきであり、これまでもこのような場合には複数選任が認められて来たところであって、公判前整理手続に付せられているか否かとは別の問題である。

 被告人国選弁護の場合、公判前整理手続に付せられた場合には、アないしエの事情の有無にかかわらず、国選弁護人の申出があれば、原則複数(追加)選任とすべきである。

 そして、同手続に付せられていなくても、上記アないしエの事情(または準ずる事情)があり、弁護活動が特に過重負担となることが想定される場合にも、複数(追加)選任とされるのは当然のことである。

 

3 次に、02.gif被疑者国選弁護の場合、刑事訴訟法第37条の5で、死刑または無期の懲役もしくは禁錮に当たる事件について、特に必要があると認めるときは、裁判官が職権でさらに1名の国選弁護人を選任できると規定されている。

 この点、同条の「必要」性の有無を検討するに、同条の法定刑に該当する事件は、裁判員裁判対象事件であり、検察庁の方針もあって、現在もそのほとんど全件が起訴後公判前整理手続に付されていること(もちろん裁判員制度導入後は起訴後必ず公判前整理手続に付されること)からすれば、弁護人においては起訴後の公判前整理手続に備えて捜査段階から連日的に接見して、事実関係の把握及び被疑者との信頼関係の構築に努める要請が高いのは言うまでもない。

 もちろん、同条の法定刑に該当する事件は、即ち重大事件であって、万々が一にも冤罪が生じてはならないのであって、被疑者弁護の重要性は特に高いのである。

 とすれば、同条の法定刑に該当する事件であれば、国選弁護人の申出があれば原則として同条の「必要」性ありとして、国選弁護の複数(追加)選任がなされるべきである。

 この点、この「必要」性は、前記アないしエの事情等がなければ認められない、と考えるべきではない。なぜなら、そうすると極めて例外的にしか複数(追加)選任が認められないこととなり、結局ほとんどの場合に弁護人が起訴後の公判前整理手続に迅速、的確に対応できないという事態となってしまいかねないからである。

 

4 最後に、03.gif被疑者段階で選任された支部所在地の弁護人にとって受訴裁判所等が遠隔地となった場合であるが、たしかに、刑事訴訟法32条1項では、被疑者段階で選任された国選弁護人は、当然に当該被告人の国選弁護人に就任するとされている。

 これは、被疑者段階と被告人段階の弁護活動の継続性を念頭に置いたものである。しかし、この規定を硬直的に捉えてはならない。支部管内で発生した事件の被疑者が本庁に起訴され、これに伴い本庁管内の刑事施設に移送された場合、被疑者段階で選任された支部管内に本拠を置く国選弁護人は、接見や公判廷へ出席するために、相当の長時間を要することが多い。しかも、その手続は、重大事件でかつ公判前整理手続に付され、また連日的開廷がなされる、というものなのである。さらに、こうした支部管内に本拠を置く弁護士は、支部において数多くの国選弁護事件を担当している場合も実情として多いのであって、これに加えて、前述のような本庁での重大事件を担当するという負担を課すことは酷に過ぎる。

 そもそも、支部管内に発生した事件が本庁に起訴されるのは、当該支部においては、裁判官の配置の関係等から、重大事件に対応するための合議体が組めない等の事情からであって、そうした言わば国の態勢の不備のつけを、一人弁護人にのみ負わしてよいわけはないのである。

 そして、こうした過重負担を強いた場合、結局のところ、弁護活動の継続性どころか充実した弁護活動自体が阻害されてしまう、という事態ともなりかねない。

 この点、最高裁は平成18年7月26日付内簡文書により各地家裁に対し、「各地の実情」を考慮するよう通知を出しているところ、上記のような地域ごとの実情をふまえた検討がなされるべきである。

 そして、その上で、複数選任のあり方のひとつとして、起訴の前後で弁護人の交代に合理的な理由があり、かつ、円滑な弁護活動に支障がないときは、被疑者段階での国選弁護人の申出により、弁護人がリレーするように交代することも認められるべきである。

 そして、そのあり方として、比較的軽微な事件であれば、起訴後その国選弁護人を解任し、追加選任された国選弁護人のみが被告人国選弁護を担うという形もありうるところである。しかし、支部管内の事件が本庁に起訴されるのは、多くの場合裁判員裁判対象事件などの重大事件であることからすれば、常に単独の弁護人が担当とすることは望ましくないのであって、前述のとおり、公判前整理手続及びその準備の負担等を考えれば、国選弁護人の申出があれば、被疑者段階から原則として国選弁護人を複数(追加)選任すべきである。とすれば、例えば、被疑者段階から支部と本庁の弁護士を国選弁護人として複数選任しておき、起訴前後で主任弁護人を交代するなどの様々なバリエーションも認められて然るべきである。

 

5 以上のとおり、前記01.gif02.gif03.gifの各場合において、日弁連の要望書以上に、国選弁護人の複数(追加)選任が広範囲に認められるべきであり、裁判所においては、より一層柔軟かつ積極的な対応をするよう求めるものである。

 

6 そして、その前提として、国においては、国選弁護人が複数(追加)選任されるために必要なだけの、十分な予算措置が講じられなければならない。

 国選弁護人が、現在行われている以上に複数選任されるとすれば、より多額の費用が必要となることは自明のことである。現在、国選報酬が低廉に過ぎることは、これまで日弁連・当連合会・各単位会が繰り返し厳しく指摘して来たところである。国においては、この現状を改めることはもとより、上記の複数(追加)選任が増加することを前提として、国選弁護予算の規模自体を大きく拡大する形での、抜本的な見直しをするよう、求めるものである。

以上