中弁連の意見

議   題

山口弁護士会

国に対し、PFI型刑務所の運営についての
検証・監視の透明性を高めるために、
外部の第三者によって構成される委員会を
設置することを求める議題

 

 国は、山口県美祢市に設置されることが決定したPFI手法による刑務所の運営について、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」で設置される刑事施設視察委員会とは別に、法務省が主張するPFI手法を採用するメリットが本当に果たされているか、また、民間事業者の関与により受刑者にとって新たな問題が生じていないかなどについての検証・監視の透明性を高めるため、外部の第三者によって構成される委員会を設置すべきである。

 以上のとおり決議する。

 

2011年(平成23年)11月18日

中国地方弁護士大会

提案理由

1 はじめに

 山口県美祢市での建設が決定した新刑務所(2007年(平成19年)4月に収容開始予定)は、PFI手法を活用して、建設に当たっては民間事業者の資本を利用し、また建物の設計・建設、そして運営の一部について民間事業者に委託することになっている。

 

2 PFIとは

 PFIとは、Private Finance Initiativeの略であり、イギリスで生まれた公共事業における民間活力導入の手法である。

 PFIは、本来ならば国が提供すべき公共サービス等について、民間事業者に対し、企画立案、資金調達、施設の建設・維持管理・運営を一括して委ねることによって、国が行うより安い費用でまた効率的に行うことが目的とされている。最終的な責任は国に留保されているが、広い意味での民営化の一態様である。

 PFIの大きなメリットとしては、当該事業の全体を民間主導で行うことを可能にさせ、民間事業者の資金力や経営能力及び技術力の活用により、行政目的の達成を効率的かつ効果的に図ることができるという点が挙げられている。

 そして、日本においても、1999年(平成11年)に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(いわゆるPFI促進法)が制定され、以後、議員宿舎や合同庁舎の整備事業に活用されてきている。

 

3 PFI手法を用いた刑務所建設へ

 そして、今回、刑事施設(刑務所)の建設・運営にもPFI手法が用いられることになり、その第1号として山口県美祢市に刑務所が建設されることになった。

 その理由として、法務省は、01.gif既存の刑務所における過剰収容の緩和のため刑務所の新設が必要であるが、国の厳しい財政事情に伴うコスト削減のために民間事業者の資本を利用する、02.gif民間事業者のノウハウ活用により受刑者に対し職業訓練等を実施し、効率的かつ効果的な矯正教育の実現を図る、03.gif「国民に理解され、支えられる刑務所」という行刑改革会議の基本理念から、国民・地域との共生による運営が図られるべきで、具体的には地域経済の活性化と地域雇用の創出という地域再生に向けての取組に寄与することも狙う、といった点を挙げている。

 

4 「美祢社会復帰促進センター」について

 そして、刑務所の新設が決定した場所は、山口県美祢市の美祢テクノパーク内で、法務省設置法上は「刑務所」であるが、「美祢社会復帰促進センター」という名称が付されることになっている。

 収容対象者は、男女初犯受刑者それぞれ500名ずつの合計1000名で、2007年(平成19年)4月に収容開始の予定である。

 事業方式については、民間事業者が自ら資金調達を行い、施設を建設・所有し、事業期間(2005年(平成17年)4月から20年間)にわたり、維持管理、運営を行った後、事業期間終了時点で国に施設の所有権を無償で譲渡するBOT(Buid Operate Tarnsfer)方式が採用された。既に入札の結果、事業者は「美祢セコムグループ」に決まり、今年の秋に着工予定である。

  運営方式は、公務員と民間職員が協同して運営する「混合運営方式」であり、刑務所管理に伴う行政責任は全て国が負い、刑罰権の行使に直接関わる権力性・専門性が高い業務については公務員である刑務官が実施する。しかし、文書作成管理、食堂、食事・衣料等の給貸与業務、清掃、警備、刑務作業における技術指導、職業訓練等は主として民間事業者が行い、また、職員人事、金銭出納、護送・出廷業務、教科教育等は民間事業者が国職員の支援を行う業務とされている。

 また、コンクリート壁、鉄格子に代わる保安機能の導入として、特殊フェンスや赤外線センサー、監視カメラの設置のほか、すべての受刑者の上着にICタグをつけ、全員の居場所や移動の軌跡を警備室にいながら、モニター画面の見取図に表示し集中監視するというシステムが稼働する予定である。

 なお、法務省は、既にPFI手法による第2号刑務所事業を、島根県旭町で行うこと(犯罪性向の進んでいない男子受刑者2000名を収容)を予定している(なお、以上について、法務省「PFI手法による新設刑務所の整備・運営事業基本構想」参照。その他の資料も含めて、法務省ホームページ(http://www.moj.go.jp/内のPFI手法による刑務所の整備・運営事業のページを参照)から入手が可能である。)。

 

5 PFI刑務所に対する評価及び危惧される問題点

 PFI刑務所では、①全受刑者が刑務作業の他に平日毎日1時間以上の職業訓練が実施される予定であり、社会復帰後の更生に資すること、02.gif外部との面会についても配慮されていること、03.gif医療について、診察、治療、医療スタッフの巡回等を外部の医療機関に委託すること、④受刑者の行動規制をできるだけ緩やかにしようとしていること等、現時点での構想において積極的に評価すべき点は多々ある。

 しかし、他方、01.gif前記ICタグによる集中監視システムは、受刑者を画面上などで『点』のように扱うことになり、人間味の伴わない『物』として視るような感覚に陥り、『人』の尊厳を軽視することにならないか、02.gif当初の運営業務水準書で要求されていた従事者資格がその後大幅に緩和されたため、適格な民間職員が確保されるかどうか疑問がある、03.gif民間職員と受刑者との間でトラブル(人権侵害)が生じていないか、またそのときにどのような対処がなされるか(あるいは、予防的な視点として人権教育がどのように行われるか)、04.gif民間職員については地元からの採用が積極的に行われる予定であるが、長期間同一刑務所で勤務することになる地元採用職員と受刑者との間に癒着が生じるおそれがないか、05.gif刑務作業の在り方について、当初の法務省の実施方針、基本構想では、「事業者が作業業務の実施により得られる収入を自らの収入とできる」とされていたが、日本弁護士連合会からの「PFI刑務所についての提言」(2004年(平成16年)10月19日付)で、刑務所労働から利潤を生み出すことを容認するシステムはILO第29号条約1条に抵触するとの提言も受けてか訂正・削除されたが、今後作業収益がどのように取り扱われるのか、06.gifまた、民間事業者が作業収益を取得できなくなった結果、警備業務や受刑者に対する職業訓練等の質が劣化しないか等の懸念がある、07.gifまた、地元への還元がどの程度図られているのか、刑務所設置による地元住民の不安が現実化していないかなどの問題もある。

 

6 PFI刑務所の運営に対する検証・監視のための第三者委員会の設置の必要性

 「美祢社会復帰促進センター」についても、「官民協働による運営を実現させ、施設運営の透明性の向上を図りつつ、『国民に理解され、支えられる刑務所』という基本理念の下、地域との共生による運営を目指す」(PFI手法による新設刑務所の整備・運営事業基本構想)のであれば、施設運営の透明性を図ることが大前提である。そして、そのためには、法務省が主張するPFI手法を採用するメリットが本当に果たされているか、また民間事業者の関与することにより受刑者にとって新たな問題が生じていないかなどについて、外部の第三者により構成されるサーベイランス(調査)委員会組織を制度化して、恒常的に検証・監視する必要があるというべきである。

 この点、本年、監獄法の改正法として制定された「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」(2005年(平成17年)5月25日法律第50号、未施行)では、各刑事施設の視察を行う第三者機関として「刑事施設視察委員会」を置くこととされ、委員会は、刑事施設を視察し、その運営に関し、刑事施設の長に対して意見を述べることができ、また法務大臣は、毎年、委員会が刑事施設の長に対して述べた意見及びこれを受けて刑事施設の長が講じた措置の内容を取りまとめ、その概要を公表するものとされている(同法第7条ないし第10条参照)。

 もちろん、PFI刑務所である「美祢社会復帰促進センター」についても、この刑事施設視察委員会が置かれることにはなる。しかしながら、「美祢社会復帰促進センター」の場合、一般の刑務所とは異なり、PFI手法を採用したことによる問題点が生じていないかなどについて十分に検証する必要があるが、刑事施設視察委員会では、その視察対象の中にPFI手法による運営の点まで盛り込まれているのか、また、その点についても考慮した上で委員の人選がなされるかどうか甚だ疑問であり、PFI導入についての十分な検証及びその問題点の改善は果たし得ないと考える。すなわち、01.gif民間事業者のノウハウ活用というメリットが生かされているか、02.gif民間職員の採用及び教育が適切に行われているか、③地元採用職員と受刑者の癒着等の問題が生じていないか、④作業収益が民間の利益になっていないかなどというPFI刑務所独自の問題点は、一般刑務所を対象とした刑事施設視察委員会では意識され難いはずであって、十分な検証及び問題点の改善にとっては不十分なのである。

 そこで、本議題においては、国(法務省)に対して、PFI刑務所については、上記刑事施設視察委員会とは別に、そのPFI手法による運営に対する検証・監視のための第三者委員会を設置することを求めるものである。そして、同委員会の委員には、弁護士や地域住民の代表者はもちろん、事業経営や企業会計に精通する公認会計士らを選任すべきである。また、同委員会には、01.gif委員会が、その職務として受刑者の処遇や施設の運営全般について協議し、同施設の長に対して、単に意見を述べるに止まらず、少なくとも勧告を行えるようにすること、02.gif委員がいつでも委員会の議を経て、施設を視察し、また職員の立ち会いなく受刑者と面会できること、03.gif受刑者からの請願の受理・意見聴取をするためのメールボックスの設置や書類閲覧の権限を認めるべきである。

以上