中弁連の意見

 中国地方弁護士会連合会は、国に対し、東日本大震災、とりわけ、福島第一原子力発電所事故による避難者への借り上げ住宅を提供するにあたり、避難者の生活の安定と充実に配慮し、以下の内容を含んだ総合的支援のための立法措置を講じることを求める。

 

  1.  避難者に対する住宅供与期間を、単年度ごとに延長する制度を改め、長期安定化させると共に、避難者の意向や生活実態に応じて更新する制度とすること
     
  2.  避難者の意向や生活実態に応じて機動的かつ弾力的に転居を認めること
     
  3.  国の直轄事業として避難者に対する住宅供与等を行い、避難先の地域特性に合わせた自治体独自の上乗せ支援を認めること

 

 以上のとおり決議する。

2014年(平成26年)10月10日

中国地方弁護士大会

提 案 理 由

1 東日本大震災と県外避難者に対する対応 

 2011年(平成23年)3月11日に発生した東日本大震災では、宮城県、岩手県及び福島県の東北3県を中心に地震被害、津波被害、福島第一原子力発電所の重大事故による放射性物質の拡散が発生し、東日本全体に多大な被害をもたらした。

 特に、福島第一原子力発電所の事故では、福島県を中心に東北、関東の広範囲に大量の放射性物質が拡散したため、放射性物質による健康被害を懸念して福島県民のみならず近隣県から多数の住民が避難し、福島県からの避難者だけでも、同県が把握しているだけで、2014年(平成26年)6月12日時点で、全国に4万5279名が避難生活を継続しており、中国地方の各県には鳥取県に合計114人、島根県に合計73人、岡山県に合計326人、広島県に合計249人、山口県に合計75人が避難生活を継続している。

 また、東日本大震災による津波被害は、北は北海道から南は千葉県と極めて広範囲で観測されており、特に岩手県・宮城県・福島県の3県では海沿いの集落はもとより、地形によってはかなり内陸部に至るまで水没したほか、仙台平野などの平野部においても、海岸線から数㎞離れた地域まで広範囲にわたって水没した。
 国土地理院の発表によると、津波により浸水した範囲は、青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉の6県62市町村で561㎢と極めて広範囲に及んだとされ、これに伴い津波により被害を受けた多くの被災者も避難生活を余儀なくされた。
 全国の都道府県及び市町村では、避難者の避難元である各県からの要請を受け、災害救助法に基づく仮設住宅の供与や、プレハブ等の応急仮設建設物の設置、さらには、公営住宅の一時使用許可や民間住宅の借り上げ(いわゆる「みなし仮設住宅」)等の方法により避難者に無償で住宅を提供している。

 

2 みなし仮設住宅制度の運用について

 ところで、上記のいわゆる、「みなし仮設住宅」の提供は、地方自治法第238条の4第7項が根拠規定となり、建築基準法第85条に定める応急仮設住宅の規定を準用し、「供与期間2年及び延長は1年ごと」という運用をしている(供与期間2年について、災害救助法第4条第3項、同施行令第3条第1項、平成25年10月1日内閣府告示第228号第2条第2号ト。延長1年ごとについて、特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第8条)。
 しかしながら、みなし仮設住宅はプレハブ等の応急仮設住宅とは異なり、建築基準法所定の基準を満たした通常の建築物であるから、「供与期間2年及び延長は1年ごと」とする合理性はないにもかかわらず、単に「みなし仮設住宅の制度を明確に定めた規定がない」という形式的な理由から、応急仮設住宅と同様の運用がなされているのが現状である。

 

3 県外避難者の実情とその問題点

 当連合会が本年1月25日に、広島弁護士会と共催した「子ども・被災者支援法の完全実施をめざして」というシンポジウムでは、福島第一原発事故によって被害に遭われ広島県内に避難した被災者の方から「避難者の中で、借り上げ住宅制度の今後の運用が一年ごとの更新であるため、大きな不安要因となっている」ことが報告された。

 また、上記シンポジウムでは「避難当初にとりあえず入居した住宅が、家族の成長・変化とともに手狭になり、住み替えを希望する被災者が多いにもかかわらず、現在の制度の運用では住み替えを認めていないことも問題だ」とも報告された。

 2014年(平成26年)1月から2月にかけて、福島県が実施した避難者意向調査においても、現在の生活で最も不安なこととして63%以上の避難者が「住宅」をあげており、住居に対する要望を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは「応急仮設住宅の入居期間の延長」の40.4%、その次に「住み替えの柔軟な対応」の26.2%であり、その他の要望(11.3%)としては、部屋の狭さの改善や家族全員で住める家についての要望、家賃の減免や家賃補助の延長、住宅購入・建設の支援、ペットと住める住まいの要望などが挙げられている(福島県のホームページより)。

 各種報道によれば「福島県内の除染作業は計画的かつ有効的に行われていない」とするものもあり、2014年(平成26年)5月中旬には全国紙で「福島県民健康調査の結果、甲状腺がんの診断が確定した子ども(震災当時18歳以下)が、50人になった」旨が報じられている。

 このような報道からすれば、福島第一原発事故で放出された放射性物質による健康被害を懸念して福島県及びその近隣県の避難者が避難を継続することは、避難者の生存権確保の観点からも尊重する必要がある。

 また、津波被害に見舞われた避難者についても、上記のとおり、被害範囲が広範囲であり、かつその被害が甚大であることから復興復旧計画が定まらず、避難元へ帰還できない被災者が相当数存在するため、原発事故被災者のみならず、津波被害に遭われた避難者の避難継続も、また生存権確保の観点から尊重する必要がある。

 現在、県外避難者が抱えている問題は、まず、「将来、自分たちが現在の居住地に住み続けることが出来るのか否か」ということである。

 東日本大震災が未曽有の大災害であったことを考慮すると、県外避難者の相当数が利用している、借り上げ住宅制度が打ち切られれば、現在の生活を維持することができないと考えられる。

 すなわち、津波被害による避難については、復旧復興計画が遅れているほか、とりわけ、福島第一原発の事故による避難という事象については、今なお放射能被害は継続しており、先の見通しも立たないため、復旧復興計画の立案はおろか事故の収束すら現実的に見据えることができず、避難の長期化を余儀なくされている状態である。しかるに、単年度ごとに延長を決めている現行の借り上げ住宅制度の運用では、こと原発事故被災者にしてみれば、希望の見えない生活を強いられることになる。このことからも、地震や津波の自然災害時に適用されてきた災害救助法の概念を、そのまま原発事故という全く事象の異なる持続性のある被害に当てはめることは、およそ妥当でない。

 また、仮に、借り上げ住宅制度で現在の住所地に居住できるとしても、子どもの成長や家族構成の変化などから、当初入居した借り上げ住宅では通常の家庭生活を営むには狭くなることが考えられる。

 そのため、現時点において、極めて消極的運用がなされている「転居」についても、今後、新たに避難を開始する被災者等にも配慮した、柔軟な対応が求められる。

 この点、本来、各自治体は、自己の裁量によって、仮設住宅等の供与の期間を相当長期間にわたるよう設定し、あるいは、転居についても容認する施策をとることは可能であるはずだが、災害救助法の仕組上、各都道府県は、管理に要した救助費等について、避難元の都道府県に対して求償し、避難元の都道府県は法の定めた基準の範囲内(災害救助法第21条第1項)でのみ国に対して求償しうるにすぎないため、避難先の自治体は避難元の都道府県にできる限り負担をかけないよう、救助の施策について、財政上躊躇せざるを得ないという傾向がみられる。

 そこで、避難者の住宅供与等については、国の直轄事業とし、避難先の自治体にかかわらず、安定かつ充実した支援を一律で行うよう努めるとともに、避難先の地域特性に応じた各自治体独自の上乗せ支援を柔軟に認め、市町村や都道府県をまたいだ転居等についても可能とする制度とすべきである。

 以上のとおり、東日本大震災の被災者全般、とりわけ、福島第一原発事故の被災者に対しては、上記の原発事故の特性を見据えて、現行の災害救助法等の関係法令に基づく借り上げ住宅制度とは異なる、避難者の意向や生活実態に応じた新たな借り上げ住宅制度を構築すべきであり、このことは、国の急務である。

 

4 結語

 よって、当連合会は、国に対して、生存権確保の観点から、被災者が安定した生活を現在の避難地で送ることが出来るよう、決議記載の総合支援を実施すべく、現行の災害救助法等関係法令について、可能な限り柔軟な解釈に立った運用を行うとともに、法的安定性の観点から、被災者への住宅供給に関する新たな立法措置を講じることを求める。

以上

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