中弁連の意見
本年10月から、日本司法支援センターのもとでの新たな国選弁護制度(含む被疑者国選)がスタートした。われわれは、かねてから当番弁護士制度を実践する中で被疑者弁護の重要性を認識してきた。その意味で、当連合会は、今回の被疑者国選弁護導入を歓迎し、熱意を持ってこの制度を支える覚悟である。
しかし、残念なことに、今回の制度導入に伴って設けられた国選弁護人の「報酬及び費用の算定基準」では、国選弁護報酬・費用が非常に低く見積もられている。
そもそも、従前の我が国における被告人国選弁護報酬の水準は、諸外国に比し著しく低いものと言われてきたが、上記算定基準では、全体的にこの低い基準がそのまま据え置かれている。
性質上、被疑者国選弁護は、被告人国選弁護以上の負担を弁護士に要求するものであり、充実した国選弁護報酬・費用体系の完備は不可欠である。
よって、当連合会は、日本司法支援センターに対し国選弁護報酬・費用の大幅増額を求めると共に、国に対しても増額のために必要な予算措置を求める。
以上のとおり決議する。
2006年(平成18年)10月13日
中国地方弁護士大会
提案理由
- 本年10月から、日本司法支援センター(以下「法テラス」という)のもとで新たな国選弁護制度がスタートした。今回の制度は、法テラスと契約した弁護士の中から法テラスが指名した者を裁判所が選任し、その報酬も法テラスが支払うというシステムである。
法テラスのもとでの新たな制度の最大の特徴は、起訴前段階における被疑者国選弁護制度の新設である。今回の被疑者国選は死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件のみを対象とするものであるが、2009年(平成21年)には必要的弁護事件全般に適用範囲が拡大する。また、以上に加え、新設された即決裁判手続にも必要的弁護制度が導入されている。
- ところで、当連合会内の各単位会では、1991年(平成3年)から1992年(平成4年)にかけて順次、当番弁護士制度を開始し、今日まで多くの会員の努力により、この当番弁護士制度を支えてきた。2005年(平成17年)1年間の当番弁護士出動件数は当連合会全体で計4,011件にも及ぶ(広島県1,690件、山口県857件、岡山県811件、島根県341件、鳥取県312件)。われわれは、こうした実践の中で被疑者弁護の重要性を認識してきた。今回の被疑者国選弁護の導入は、こうした当番弁護士活動の重要性が認識されたものと評価できる。その意味で、当連合会は、今回の被疑者国選弁護導入を歓迎し、熱意を持ってこの制度を支える覚悟である。
- しかし、残念なことに、今回の制度導入に伴い設けられた「国選弁護人契約約款」中の「報酬及び費用の算定基準」によれば、国選弁護報酬・費用が非常に低く見積もられている。
上記算定基準では、後述のとおり基本的に低いと言われてきた基準がそのまま据え置かれている。例えば、公判回数3回、単独事件の地方裁判所における被告人国選の基礎報酬は84,000円とされているが、これは従前の国選弁護事件の基準(2006年度で85,100円)さえも下回るものである。
しかも、接見回数・公判回数が労力反映の基準とされているものの基準が形式的に過ぎ事件固有の要素が反映しない、明らかに客観的に評価可能な保釈や無罪の獲得さえもが成果加算の要素とされないなど刑事弁護の実態から乖離している、費用についても200枚未満の記録謄写が実費であるにもかかわらず請求できないなど全く不十分なものとなっている。
- 従来から、我が国の被告人国選弁護報酬の水準は、諸外国に比し著しく低いものと言われてきたにもかかわらず、被告人国選弁護の標準報酬はこの数年3回にわたり切り下げられてきた。
法テラス設置の根拠法である総合法律支援法第5条によれば「総合法律支援の実施及び体制の整備に当たっては、迅速かつ確実に国選弁護人の選任が行われる態勢の確保が図られなければならない」とあり、この「態勢の確保」の中には、充実した国選弁護報酬や費用体系の完備も当然含まれる。
また、特に被告人国選制度は、日本国憲法第37条3項で保障された重要な制度であるにもかかわらず、このような貧困な国選弁護報酬の実態をこのまま放置することは、国家が憲法上の制度を事実上否定するに等しい。
さらに、性質上、被疑者国選は被告人国選以上の負担を弁護士に強いるものであり、充実した国選弁護報酬・費用体系の完備は不可欠である。特に2009年(平成21年)には被疑者国選の適用範囲が大幅に拡大するから、今後、国選報酬・費用の大幅な改善がなされるべきである。
- よって、当連合会は、法テラスに対し国選弁護報酬・費用の大幅増額を求めると共に、国に対しても増額のために必要な予算措置を求めるものである。