中弁連の意見

 当連合会は、

 当連合会は、高齢者虐待防止のため、弁護士・各弁護士会が、社会福祉士、司法書士、医師などの幅広い専門職とネットワークを組み、弁護士・弁護士会の活動を強化することを求める。

 以上のとおり決議する。

2008年(平成20年)10月10日
中国地方弁護士大会

提案理由

  1.  2006年(平成18年)4月1日に施行された「高齢者の虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下、「高齢者虐待防止法」という。)は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、高齢者虐待の防止等に関する国等の責務、高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置、養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援等を定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資することを目的としている(同法1条)。
     同時に施行された改正介護保険法により地域における高齢者の権利擁護の役割を担う地域包括支援センターが各地に設置され、このセンターに高齢者虐待対応の役割が位置づけられた。
     
  2.  同法3条3項は、「国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護に資するため、高齢者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行なうものとする。」と規定しているが、その「救済制度等」には、各弁護士会の高齢者・障害者支援センター、法テラスなどが含まれている。
     同法5条1項は、「養介護施設、病院、保健所その他高齢者の福祉に業務上関係のある団体及び養介護施設従事者等、医師、保健師、弁護士その他高齢者の福祉に職務上関係のある者は、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、高齢者虐待の早期発見に努めなければならない。」、2項は、「前項に規定する者は、国及び地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止のための啓発活動及び高齢者虐待を受けた高齢者の保護のための施策に協力するよう努めなければならない。」と規定し、弁護士に「高齢者虐待早期発見努力義務」、「市町村が行なう虐待防止活動、被虐待者保護施策への協力努力義務」を課している。
     同法16条は、「市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するため、」「老人介護支援センター、」「地域包括支援センターその他関係機関、民間団体等との連携協力体制を整備しなければならない。この場合において、養護者による高齢者虐待にいつでも迅速に対応することができるよう、特に配慮しなければならない。」と、市町村、地域包括支援センター、民間団体の連携協力体制を規定しており、とりわけ、弁護士会、社会福祉士会などの専門職とのネットワークが大切である。
     同法27条は高齢者の消費者被害に対する関係機関の協力を、同法28条は成年後見制度の利用などを規定しているが、この分野における弁護士・弁護士会の役割の重要性は言うまでも無い。
     
  3.  第48回日本弁護士連合会人権擁護大会(2005年(平成17年)鳥取人権大会)では、「いつまでもこの地域(まち)で暮らしたい」(副題「高齢者、障がいのある人が地域で自分らしく安心して暮らすために」)と題するシンポジウムが開かれ、行政、医療、福祉、法律などの専門家の異業種・多業種のネットワーク構築の重要性が認識された。
     高齢者虐待対応についてネットワークが重要である理由は、第1に、虐待の原因は多種多様であり、その対応策を検討し実践するには、一つの専門職だけでは対応しきれないことが多いからであり、第2に、虐待を発見した人が相談に駆け込むことの出来る相談窓口、相談後の継続的なフォローをする態勢が必要であり、そのためには、各専門職が協力して問題を解決していく体制の構築が不可欠である。各専門職が各専門性を活かし、相互に協力して総合的に対応することが必要だからである。
     これまでも先進的な地域では、地方自治体が中心となって、福祉・保健・医療・行政・弁護士その他の関係者がネットワークを構築し、そのネットワークの中で虐待を予防し、また虐待事例に対応してきた。またある地域では、弁護士や社会福祉士が中心となって、同様のネットワークを構築して活動してきた。
     
  4.  本決議提案県である鳥取県においては、「高齢者・障がい者権利擁護センター」を設置していないものの、2002年(平成14年)には、成年後見ネットワーク鳥取が、2004年(平成16年)には、成年後見ネットワーク米子が設立され、弁護士、社会福祉士、司法書士、医師、精神保健福祉士、保健師、行政書士などが会員となり、成年後見制度の利用促進・発展や、高齢者虐待防止など高齢者・障がい者の権利擁護のための活動を行なっている。
     成年後見ネットワーク鳥取、同米子は、本年2008年(平成20年)4月より鳥取県から委託を受け、高齢者の権利擁護相談支援事業を行っている。具体的には県内の各市町村、地域包括支援センターからの要請に基づき、高齢者虐待対応専門職チームを組んで、高齢者虐待に対応する事業(出張相談、ケース会議に出席しての助言、立ち入り調査に同行する等の現場対応)を行っている。
     また、成年後見ネットワーク米子は、本年2008年(平成20年)4月から、独立行政法人福祉医療機構の助成事業として、高齢者虐待に関し県民から広く相談を受け付ける平日の電話による常設窓口を設置し、法律専門職と福祉関係専門職によるチームを随時編成して高齢者虐待への対応・被害拡大防止、介護者・擁護者の支援、負担軽減に資する活動を行なっている。
     
  5.  鳥取県内のみならず、中国地方の各県においても、それぞれの特色を生かしたネットワークの構築がなされ、弁護士がその重要な一翼を担って活動している。
     例えば、岡山県においては、岡山弁護士会設立の(財)リーガル・エイド岡山が、県から委託を受けて、地域包括支援センターなど福祉専門職向けに、毎週1回の無料相談(電話・出張相談を含む)のみならず、2008年(平成20年)10月現在県内13市3町が高齢者虐待対応専門職アドバイザー契約を締結し、月例ケース会議の参加などにより全国でも最も活発に活動してきている。とはいえ、これらの活動が、未だ限られた弁護士の活動となっており、また、各単位弁護士会の状況等によって、温度差がある。そのような中、2008年(平成20年)11月21日においては、日弁連、中弁連、岡山弁護士会、及び(財)リーガル・エイド岡山主催の「第7回高齢者・障害者権利擁護の集い」が岡山で開催され、シンポジウムに於いて、高齢者虐待対応専門職チームの活動実績及び問題点が意見交換され、弁護士が他業種との連携につき果たすべき役割について、実例に基づき、具体的に検証するが、高齢者虐待防止のために、弁護士が、弁護士会が、その責務に応えているのかと言えば、未だ十分ではない。
     
  6.  昨年2007年(平成19年)度第61回中国地方弁護士大会においては島根県弁護士会提案の「高齢者虐待防止法を実効性あるものにするための議題」が審議され可決された。これを受けたこの1年間に上記の通り各地での活動が進んできたが、まだまだこの問題の重要性に見合ったものとはなっておらず、さらに各地の活動を押し進める必要性がある。
     
  7.  そこで、当連合会は、高齢者虐待防止のため、弁護士・各弁護士会が、社会福祉士、司法書士、医師などの幅広い専門職とネットワークを組むことの重要性を改めて強く認識し、高齢者虐待に対応する活動を強化することを求める。

以上