中弁連の意見

当連合会は、

  1.  国に対し、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第121条を、死刑確定者と再審請求弁護人及び同弁護人となろうとする者との接見に立会人を付することを禁止する内容に改正することを要請し、
     
  2.  法務省に対し、「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれ」ないし「死刑確定者の心情を把握するため」という理由で死刑確定者と再審請求弁護人及び同弁護人となろうとする者との接見に立会人を付内容の2007年(平成19年)5月30日付通達を、死刑確定者と再審請求弁護人及び同弁護人となろうとする者との接見に立会人を付することを禁止する内容に改めることを要請し、
     
  3.  死刑確定者を拘置する各拘置所長に対し、死刑確定者と再審請求弁護人及び同弁護人となろうとする者との接見において、再審請求や再審開始決定の前後を問わず、例外なく立会人を付さないよう要請する。

 

 以上のとおり決議する。

2009年(平成21年)10月9日

中国地方弁護士大会

提案理由

1 総論

 現在、死刑確定者と再審請求弁護人及び同弁護人となろうとする者(以下「再審請求弁護人等」という。)との接見については、再審開始決定後は死刑確定者と再審弁護人との請求には立会人は付されない運用となっているものの、再審開始決定前の段階では、「死刑確定者の心情把握の必要性がある」「施設の規律・秩序維持のため」「死刑確定者の自傷行為等の事故防止のため」「死刑確定者の再審請求の意思が明確でない」などといった理由によって死刑確定者と再審請求弁護人等との接見のほとんど全てに刑務官が立ち会っているのが実情である。

 一方、我が国の憲法上、弁護人の固有権として、刑事手続上身体拘束を受けている全ての者との秘密接見交通権が保障されており、この秘密接見交通権の保障は、当然、死刑判決が確定した被拘禁者との接見にも及ぶ。

 このような秘密接見交通権の保障の趣旨に照らし、上記の実情は、死刑確定者の重大な権利を侵害しているものであり、その運用が違憲違法であることは明白である。

 そして、我が国における死刑確定者と再審請求弁護人等との間の秘密接見交通権侵害は国際法上も許されるものではなく、国連の市民的及び政治的権利に関する委員会から、我が国の現状を是正すべきとの強い意見が述べられるに至っているのである。

 

2 死刑確定者と再審請求弁護人等との接見の実情

(1)旧監獄法
 旧監獄法においては、第9条により死刑確定者には刑事被告人に適用すべき規定が準用され、同法施行規則127条1項は「接見には監獄官吏之に立会う可し但し刑事被告人と弁護人との接見は此の限りにあらず」と規定していたことから、死刑確定者と再審請求弁護人等との接見には職員は立ち会わないこととなっていた。
 そして、実際に上記規定どおりの運用がなされていたが、いわゆる帝銀事件をきっかけとして昭和38年3月15日付矯正局局長通達矯正甲第96号が出され、以後、監獄法の明文を曲げて、死刑確定者と再審請求弁護人等との接見には刑務官が必ず立ち会う運用に変更された。

 

(2)刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律施行後
 2006年(平成18年)5月24日に刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行され(以下「刑事収容施設法」という。)、監獄法は廃止されたが、刑事収容施設法第121条は
 「刑事施設の長は、その指名する職員に、死刑確定者の面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させるものとする。ただし、死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会又は録音若しくは録画をさせないことを適当とする事情がある場合において、相当と認めるときは、この限りでない。」
 と規定している。
 これを受けて昭和38年3月15日付矯正局局長通達矯正甲第96号は改められ、2007年(平成19年)5月30日付の同通達は
 「法第121条第1項ただし書による面会の立会い等の省略については、例えば、死刑確定者が受けた処遇に関して弁護士法第3条1項に規定する職務を遂行する弁護士や、再審請求等の代理人たる弁護士との面会については、立会い等の措置の省略を適当とする事情があると考えられるところ、このような場合であっても、必ず立会い等の措置を省略すべきというものではなく、さらに、立会い等の措置の省略を相当と認めることが必要であり、その判断に当たっては、立会い等の措置を省略することにより刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められるかどうか、死刑確定者の心情を把握するため立会い等の措置を執ることが必要であるかどうかを個別に検討することが必要」
 としている。
 上記通達を受けて、再審開始決定前の段階においては、「死刑確定者の心情把握の必要性がある」「施設の規律・秩序維持のため」「死刑確定者の自傷行為等の事故防止のため」「死刑確定者の再審請求の意思が明確でない」などといった理由によって死刑確定者と再審請求弁護人等との接見のほとんど全てに刑務官が立ち会っているのが現状である。

 

3 死刑確定者と再審請求弁護人等(再審請求前を含む)との秘密接見交通権の保障

(1)憲法34条・刑事訴訟法39条1項の趣旨
 憲法34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない」と規定しているところ、同条の趣旨は、国家権力によりその身体を拘束される者に、単に弁護人を選任する権利を認めるにとどまらず、被拘束者がその自由を防御する上で最も必要な時に法律専門家の援助を得る機会を実質的に保障する規定である。
 このような憲法34条の趣旨に照らし、刑事訴訟法39条1項は、弁護人の実質的な援助を受けるために必要不可欠な秘密接見交通権を保障したものであると解されるのであり、秘密接見交通権は「身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つ」(最高裁判所第一小法廷昭和53年7月10日判決)として、憲法34条の保障が及ぶのである。

 

(2)死刑確定者と再審請求弁護人等に例外なく秘密接見交通権が保障されること

ア 憲法34条の保障
 憲法34条の保障は、その文言上「抑留又は拘禁」された国民の全てに及ぶものである。したがって、再審請求人が弁護人の実質的援助を受ける権利を実質的に保障する観点から、以下に述べるとおり、再審請求人と弁護人との秘密接見交通権は、再審開始決定の前後を問わず、また、再審請求の前後を問わず、等しく保障されるべきものである。

イ 再審開始決定の前後を問わず秘密接見交通権を保障すべき必要性
 再審開始決定が確定した事件は、その審級に従い、更に審判をすることになる(刑事訴訟法451条1項)。従って、刑事訴訟法451条2項に規定する場合を除き、再審公判手続には同法の総則規定の適用があり、同法39条1項によって被告人と弁護人との間に秘密接見交通権が認められる。
 この点、再審請求後開始決定前の手続においては、再審請求の理由(刑事訴訟法435条)の有無が判断される。それは再審の審理の前提となるものであるが、再審開始決定の判断に再審公判の審理は拘束されると解され、また、再審理由があると認められた場合には、原判決が変更される可能性が高いのであるから、再審請求手続と再審公判手続とは、事実上一体のものである。
 とりわけ刑事訴訟法435条6号の再審理由の有無を判断する際に、その明白性の判断において「当の証拠と他の全証拠と総合的に評価して判断すべき」とされている(最高裁判所昭和50年5月20日決定)ことなどから、再審請求手続における判断は実体的な内容を持つものである。
 すなわち、再審請求審は、「当の証拠と他の全証拠と総合的に評価」することを通じて、被告人の罪責の有無について実体的な判断を行う手続であるといえる。
 上記のような再審請求手続の再審公判手続との一体性・実質性からすれば、再審請求手続においても、再審公判手続におけるのと同様に法律の専門家たる弁護士の援助が再審請求者に必要である。

ウ 再審請求前であっても秘密接見交通権を保障すべき必要性、及び、これを予定する条文の存在
 憲法37条3項は、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる」と規定する。そして、刑事訴訟法は440条1項で「検察官以外の者は、再審の請求をする場合には、弁護人を選任することができる」とし、同条2項では「前項の規定による弁護人の選任は、再審の判決があるまでその効力を有する」と規定して、再審請求における弁護人選任権を明文で定めている。
 また、刑事訴訟法は440条1項が「再審の請求をする場合には」として、その時期を再審請求前と後とで区別していない。

 このような条文から明らかなとおり、憲法及び刑訴法上、再審請求を行おうとする者は、弁護人の実質的援助が保障されなければならないことが予定されているのである。
 このような条文と、前述の、再審請求審手続が罪体の実体的判断を行う性質を持ち再審請求者には弁護人の実質的援助が必要であることを併せ考えると、再審請求前の段階は、再審請求審の準備段階といえるのである。
 したがって、捜査段階における秘密接見交通権の侵害が起訴後の被告人の防御権を侵害することと同様に、再審請求前の段階において弁護人の実質的援助を受ける権利が保障されなければ、再審手続において弁護人の実質的援助を受ける権利も侵害されることが明白である。
 以上の憲法及び刑訴法上の条文並びに再審請求段階において弁護人の実質的援助を受ける必要性に照らし、再審請求者には、再審請求の前後を問わず、秘密接見交通権の保障が及ぶのである。
 この点、憲法34条は憲法33条に続けて規定されているため、憲法34条の保障は被疑者及び被告人にのみ及ぶという見解もあるが、そのような理解は許されるものではない。憲法40条においても憲法34条と同様に「抑留又は拘禁」という語句が使用されているところ、憲法40条の「抑留又は拘禁」に、有罪判決を受けて確定したことによる身体拘束が含まれることは明らかだからである。

 

(3)小括
 上記(1)及び(2)で述べた憲法34条及び刑事訴訟法39条1項の趣旨並びに再審請求手続と再審公判手続の一体性・実質性に鑑みれば、拘置所に身体拘束されている死刑確定者が再審請求をしようとする場合にも刑事訴訟法39条1項が準用され、弁護人と再審請求者たる死刑確定者との接見において、請求の前後を問わず秘密接見交通権が保障されるというべきである。

 

4 死刑確定者と再審請求弁護人等との間の秘密接見交通権の侵害は許されないこと

(1)上記第2項で述べた死刑確定者と再審請求弁護人等との秘密接見交通権からすれば、上記第1項で述べた運用は明らかに違憲・違法であるところ、かかる運用には、秘密接見交通権の侵害を正当化すべき理由は全く見あたらない。

 

(2)立会による実害の顕著性  死刑確定者が再審請求をする場合において、国(検察)側は相手方(刑事訴訟規則286条参照)であり、刑務官の立会によって、死刑確定者と再審請求弁護人等との再審請求に関する打ち合わせの内容が、拘置所側から検察側に漏れるのではないかとの危惧から、十分な打ち合わせができないという状況が生じることは誰の目にも明らかであり、ひいては、再審制度の目的である刑事手続における正義の実現、冤罪防止等が実現できなくなる。
 なお、帝銀事件再審裁判所が請求人の接見簿等を職権で取り寄せ判断資料としていたことも後に判明しているのであり、上記のような危惧には十分な理由がある。

 

(3)立会理由の不当性
 死刑確定者はただ死にゆくものではなく、死刑が執行されるまでの間、人間として生きる権利を有するものである。刑執行の確保のための必要最小限度の制約に服する以外、あらゆる人権を享受する権利を有し、人間の尊厳を認められるべき主体である。当然、再審請求や恩赦請求など、身体拘束解放のための手続を申し立てる権利をも有している。
 「死刑確定者の心情把握の必要性」という立会理由は明らかに不当である。確かに死刑確定者の心情の安定は必要であるが、死刑確定者が死刑執行までをいかに生きるか、そしてどのような心情をもって執行に臨むのかは、基本的に死刑確定者に委ねられた問題である。それが死刑確定者のあらゆる利益に優先するものでは到底ない。まして、秘密接見交通権を侵害してまで守られるべき利益ではおよそあり得ない。死刑確定者の心情把握は、接見以外の日常における死刑確定者とのコミュニケーションにおいてなされるべきである。
 同様に、秘密接見交通権に優る拘置所の規律・秩序維持の利益というものは想定できない。自傷行為の恐れについても、接見室の外に刑務官が待機することなどによて十分対処が可能である。死刑確定者の再審請求の意思が明らかではないという理由に至っては、再審請求弁護人を選任又は選任しようとしている以上、何ら立会を付する根拠となりえない。

 

(4)国家賠償訴訟の提起
 このような拘置所側の違憲・違法な対応に対し、死刑確定者及び弁護人の秘密接見交通権が侵害されたとして、広島地方裁判所及びさいたま地方裁判所に国家賠償訴訟が提起されるに至っている。
 このうち、広島地方裁判所平成20年(ワ)第2145号損害賠償請求事件は、広島拘置所に拘禁されている死刑確定者A氏と、同人の再審請求手続の弁護人に選任されている広島弁護士会所属石口俊一弁護士及び同武井康年弁護士が、再審請求について打ち合わせのために立会人なしの接見(秘密接見)をしようとしたが、2008年(平成20年)5月2日、同7月15日及び同8月12日の3回の接見のいずれについても、広島拘置所職員らが秘密接見を拒否し、立会人付の一般面会しか許さなかったという接見妨害について、A氏、武井弁護士及び石口弁護士が原告となり国家賠償請求訴訟を提起したものである。
 また、広島地方裁判所平成21年(ワ)第979号国家賠償請求事件は、広島拘置所に拘禁されている死刑確定者B氏の再審請求弁護人となろうとした広島弁護士会所属久保豊年弁護士及び同藤井裕弁護士が、2009年(平成21年)2月24日、B氏との秘密接見を申し入れたが、広島拘置所職員らが秘密接見を拒否し、立会人付の一般面会しか許さず、さらに、久保弁護士及び藤井弁護士が再審請求弁護人となった後の同年3月6日及び同月25日、再審請求について打合せのためにB氏との秘密接見を申し入れたが、いずれについても、広島拘置所職員らが秘密接見を拒否し、立会人付の一般面会しか許さなかったという接見妨害について、B氏、久保弁護士及び藤井弁護士が原告となり国家賠償請求訴訟を提起したというものである。
 上記のいずれの事案についても、広島拘置所が秘密接見を妨害することにより、再審請求の準備が妨害され再審請求が困難となっており、死刑確定者の再審請求を行う権利が侵害され、死刑確定者の生命が再審により救われる機会が失われる危険が生じるとともに、当連合会の会員の職務に多大な支障が生じており、このような事態を放置することは許容できない。
 したがって、当連合会の会員の職務に対する妨害を除去するとともに、死刑確定者の権利を保障するためには、死刑確定者と再審請求弁護人及び同弁護人となろうとする者との接見に立会人を付する根拠となっている法令を改正し、拘置所の運用を改めることが必要不可欠である。

 

5 国連の市民的及び政治的権利に関する委員会の見解

 国連の市民的及び政治的権利に関する委員会(以下「自由権規約委員会」という)から日本政府に対しなされた「死刑裁判に対する義務的な上訴制度を導入し、死刑囚の法的援助へのアクセスを強化し、再審請求期間中の弁護士との通信の秘密性を保証し、そして再審手続き又は恩赦請求による執行差し止めの確保のために、どのような措置がとられたのか。」との質問に対し、日本政府は、「(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律では)死刑確定者と再審請求弁護士との面会については、個別の事案ごとに、立会い等の省略を適当とする事情の有無や、立会い等の省略により刑事施設の規律及び秩序の維持に及ぼす影響、死刑確定者の心情把握の必要性等を考慮しながら、立会等の省略が相当と判断した場合には、これを省略することができる旨定められている」と回答した。

 これに対し、2008年(平成20年)11月30日、自由権規約委員会は、「裁判所が再審開始を決定するまでは再審請求を担当する弁護士と死刑確定者との面会に刑務官が立ち会い、監視すること・・・にも懸念をもって留意する」「・・・締約国(日本)は、死刑確定者と再審に関する弁護士との間の全ての面会の厳格な秘密性についても保証すべきである」との最終見解を表明し、我が国において死刑確定者と再審請求弁護人との接見に秘密接見交通権が例外なく認められていない現状を真っ向から否定した。

 

6 結論

 以上述べてきたことから、死刑確定者が再審請求を行う場合、再審請求弁護人等との接見においては再審請求の前後を問わず秘密接見交通権が保障されており、いかなる理由をもってしても刑務官の立会は認められない。そうであるにもかかわらず、多くの場合に死刑確定者と再審請求弁護人等との接見に刑務官が立ち会い秘密接見交通権が侵害されている現状は、憲法及び国際法上の人権保障に対する重大な侵害であり、直ちに是正されなければならない。

 そこで、基本的人権の保障の担い手である弁護士により構成される当連合会は、死刑確定者と再審請求弁護人等との接見に刑務官が立ち会い秘密接見交通権が侵害されている現状に断固抗議するとともに、死刑確定者と再審請求弁護人等との全ての接見に一切の立会人を付さないよう要請するものである。

 よって、上記のとおり決議する。

以上