中弁連の意見
中国地方弁護士会連合会は、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故による被害の適切な救済及び日本のエネルギー政策の転換を行うために、
- 国及び東京電力株式会社に対し、福島第一原発事故によって被害を被った住民等に、被害の実情に応じた、必要かつ適切な支援及び補償を行うとともに、市民の被曝低減のための長期的対策を行うこと
- 国及び電力会社に対し、中国電力上関原子力発電所の新設及び島根原子力発電所3号機の増設を含む原子力発電所の新増設を中止し、既存の原子力発電所については、島根原子力発電所1号機など、運転開始後30年を経過したもの、同1号機、2号機を含め大規模な地震が発生することが予見される場所に設置されたものは、直ちに廃止し、その他のものについても、10年以内の期限を定めて、段階的に廃止すること
- 国に対し、原子力に依存したエネルギー政策から、再生可能エネルギーへの転換及びエネルギー消費抑制と効率的利用を要とする、持続可能なエネルギー政策への移行を図り、そのために実効性のある制度を具体的に実施すること
を求める。
以上のとおり決議する。
2011年(平成23年)11月18日
中国地方弁護士大会
- 島根原子力発電所(PDF:35KB)
提案理由
1 これまでの中国地方弁護士大会の決議と福島第一原子力発電所の事故
(1)国の原子力政策や電力会社による原子力利用は、市民の生命・身体等の人格権や環境権、平和的生存権など重要な人権に深く関わる問題であり、それゆえ、市民が十分な情報を開示された上で、政策決定過程に参加することが保障されるべきであるという民主主義の根幹にも関わる問題でもある。
(2)そのような認識から、当連合会は、これまでに、原子力政策に関し、次の通り、決議を行い、意見を表明してきた。
当連合会は、1990年(平成2年)、松江市で開催された中国弁護士大会において、「政府及び電力会社は、(1) 原子力発電の安全性・必要性に偏した宣伝、広報を直ちに中止し、原子力発電の危険性、使用済み核燃料の再処理の困難性、放射性廃棄物の危険性とその処分の困難性などについて、正確な情報を国民に提供すべきである。(2) 原子力発電施設の運転、増設計画、プルトニウム利用による原子力発電計画を抜本的に考え直し、改めて、国民の総意に基づくエネルギー政策を決定すべきである。」との決議を行った。
2006年(平成18年)、鳥取市において行われた中国地方弁護士大会においては、中国電力島根原子力発電所(以下、「島根原発」という。)におけるプルサーマル計画実施の事前了解の可否の最終判断に当たって、「1 島根県及び松江市は、専門家、地域住民、NGOなどによって構成される原子力政策に関する独自の常設の調査研究組織を設置し、プルサーマルの安全性のみならず、必要性、経済性、政策としての妥当性、地域にとっての利害得失を含め、幅広い問題について、長期的視野をもって慎重、かつ、適切な検討を行うこと。2 国及び電気事業者は、プルサーマルの安全性、必要性、経済性、政策としての妥当性等の問題について、十分な情報公開を行い、説明責任を果たすこと。3 島根県及び松江市は、住民投票、公開討論会、意見募集等の方法により、事前了解を行うか否かの意思決定過程への住民参加を保証し、住民の意見を十分に反映した判断をすること。」を求める決議を行った。
(3)2011年(平成23年)3月11日発生の東北地方太平洋沖地震を契機とする東京電力株式会社(以下、「東京電力」という。)福島第一原子力発電所(以下、「福島第一原発」という。)の事故が多くの市民の生活や環境にもたらした重大な影響と当該事故が明らかにした原子力発電の本質的危険性を、当連合会は座視することはできない。
人権擁護の立場から、原子力政策に対する、当連合会としての意見を表明するべきである。
(4)成年後見制度は、判断能力の不十分な人の現有能力を過不足なく補うことによって、一方でその保護を図りつつ、他方でその能力に応じて個人として自分らしく生きるにふさわしい自己決定を保障することにより、個人として安心・安全に生きることができ、同時に人間らしく尊重される社会を目指すものである。
2 福島第一原発事故がもたらした甚大な被害
(1)2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により、福島第一原発の1号機から4号機において、原子炉や使用済核燃料プール内の核燃料を冷却する機能が失われた。
地震の発生から冷却機能喪失に至る具体的機序は未だ明らかになっておらず、また、地震や津波による各原子炉の損傷状況の詳細も未だに不明であるが、地震後の冷却機能喪失により、福島第一原発1号機、2号機及び3号機では、炉心が溶融した。これらの原子炉では、圧力容器の底部が損傷して溶融した燃料の一部が格納容器内に落下、堆積している可能性も指摘されている。また、1号機、3号機及び4号機では、水素爆発が起き、2号機内部でも爆発が発生し、汚染水が漏出するなどして、大量の放射性物質が、環境中へと放出された(以下、一連の事故を「福島第一原発事故」という。)。
原子力安全・保安院の算出によれば、福島第一原発からの放射性物質の大気中への総放出量は、ヨウ素131が1.6×1017ベクレル、セシウム137が1.5×1016ベクレルと推定されている[2011年(平成23年)6月7日付IAEAに対する報告書]。
大量の放射性核種の放出を惹起した福島第一原発事故は、原子力事故に関する国際評価尺度(INS)において、最悪のレベル7の重大事故と評価された。
(2)福島第一原発事故により、広範囲にわたって、大気、海洋、土壌、河川などが、放射能で汚染された。
そのため、福島第一原発から半径20㎞圏内の地域(後に、原則立ち入り禁止となる警戒区域に指定)の住民に対して避難指示が出され、半径20㎞圏外であっても放射線量率の高い場所が、計画的避難区域や特定避難勧奨地点に指定されるなど、多くの人々が、住居・雇用・コミュニティ等の生活基盤から引き離された。また、半径20㎞以上30㎞圏内の区域では住民が屋内退避を命じられ、さらには、これらの圏外においても、放射能を逃れて、自主的に退避するなどした住民も多数に上っている。放射能の暫定基準値を超えた葉菜類などの農産物や原乳などの畜産物が出荷を制限され、耕作地の放棄や家畜の殺処分などを余儀なくされ、コウナゴなどの魚介類からも基準値を超える放射能が検出され、さらには、風評被害にも見舞われるなど、福島県及び近隣の県の農漁業が甚大な被害を受けた。
地元の産業活動も停止状態となり、観光産業も風評被害による損害を被った。
また、遠く離れた東京の水道水からも乳児の摂取制限を超える放射能が検出され、放射能で汚染された稲わらを餌として与えられた牛の肉が全国的に流通するなど、極めて広い範囲で住民の生活に影響を与えている。
福島第一原発で事故の収束作業に従事する労働者をはじめ、消防官、自衛官なども、敷地内の非常に高い放射能、防護服を着用することによる高温や高湿度など、過酷で劣悪な環境の中で、被曝労働を強いられている。
さらに、放射能汚染のために、遺体の収容が困難となったり、地震や津波などで発生した瓦礫などの廃棄物の処理も進められないなど、地震からの復興さえも阻まれる事態となっている。
(3)このような甚大な被害をもたらした福島第一原発は、未だ安定した状態にあるとは言えない。
そして、事故により、環境中に放出された放射性物質は、今後も、長期間にわたって、人々の生命・身体、生活や環境に重大な影響を及ぼし続けることが懸念されている。
多くの住民は、未だに帰還の目途が立たないままである。大気、海洋、土壌などの放射能汚染からの回復が図られなければ、農漁業や観光産業など再開の先行きも不透明である。
3 適切な被害救済及び長期的対策の必要性
(1)このように、福島第一原発事故により、多くの人々が避難や休業を余儀なくされ、身体的にも、財産的にも、精神的にも、過去に例をみない、甚大な被害に見舞われた。
福島第一原発事故による被害については、原子力損害賠償法に則り、東京電力が賠償を行い、国が必要な措置を講じることとされている。2011年(平成23年)8月3日には、東京電力による損害賠償を支援するための原子力損害賠償支援機構法が成立し、同月5日には、原子力損害賠償紛争審査会によって、原子力損害賠償法に基づく原子力損害の判定等に関する中間指針が示された。しかし、中間指針については、対象区域の内と外で救済範囲を区別する考え方、精神的損害に対する低額の慰謝料、生活費の増加分まで慰謝料に含める算定方法などの問題点が指摘されているとともに、指針に示されていない損害の賠償の必要性も問われている。
今回の被害は、国と電力会社等、産・官・政・学が安全神話の下に推進してきた原子力政策によって、強いられたものであると言っても過言ではない。
国の政策の下に発生した全ての被害は、切り捨てられることなく、十全に補償されなければならない。
よって、当連合会は、国及び東京電力に対し、福島第一原発事故によって被害を被った住民などに、被害の実情に応じた、必要かつ適切な補償を行うことを求める。
(2)また、大気、海洋、土壌などの環境中に放出された放射能は、今後、長期間にわたって、直接、あるいは、飲料水や農作物・魚介類を通じて間接的に、人々の生命や身体に対し、影響を与え続けることが懸念されている。
2011年(平成23年)8月30日、「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」が公布され、環境汚染の統一的な監視及び測定、汚染された廃棄物の処理、汚染された地域の除染に関する基本的枠組みが整備されたが、これらの措置は、適切に実施されなければならない。
福島第一原発事故の被害に対する支援においては、環境中の放射線のモニタリング、農産物・水産物・加工食品の放射線管理、住民や労働者に対する放射線防護措置など、将来にわたって、長期間かつ広範囲の被曝低減のための対策が、行われなければならない。
(3)人々の身体・生命に対する被曝の影響については、長期間にわたる健康管理、被曝による影響の低減、疫学的な継続調査等が必要であり、そのための制度や費用的措置も講じられなければならない。
ここ中国地方の広島では、人類史上初めて原子爆弾が投下され、多くの市民の命が一瞬にして奪われるとともに、夥しい数の人々が、長年にわたり、被曝の影響に苦しめられてきた。
広島における経験の蓄積が、ここにおいて十分に活かされるべきである。
4 原子力発電所の新増設中止、既存の原子力発電所の速やかな廃止
(1)国は、これまで、原子力を「供給安定性・環境適合性・経済効率性を同時に満たす基幹エネルギー」と位置づけ、再処理・核燃料サイクル、原子力発電所におけるプルトニウム利用を国の基本的な政策として推進してきた。
現在、日本では、福島第一原発も含め54基の商業用原子力発電炉が設置され、さらに、3基が建設中、12基が計画中である。既設原子炉のうち、運転開始後30年を超過したものは、19基に及んでいる。
(2)2005年(平成17年)10月に閣議決定された「原子力政策大綱」では、「2030年以後も総発電電力量の30~40%程度という現在の水準程度か、それ以上の供給割合を原子力発電で担う」とし、2010年(平成22年)6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、「2020年までに、9基の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約85%を目指す。(中略)さらに2030年までに、少なくとも14基以上の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約90%を目指していく。」とされ、計画的な原子力発電所の新増設・リプレースを行うとされてきた。
(3)しかしながら、福島第一原発事故により、原子力発電所の安全神話は崩壊し、国民ばかりか、国際的にも、原子力利用に対する「理解と信頼」は全く失われるとともに、ひとたび、原子力発電所が深刻な事故を起こせば、広範囲にわたる不安定な電力供給、放射性物質による甚大な被害、莫大な経済的損失等をもたらし、もはや、原子力が、「供給安定性・環境適合性・経済効率性を同時に満たす」など、幻想に過ぎないことが明らかとなった。 また、従来から、原子力発電の現実的な高コストや、ウランの採掘から放射性廃棄物の処分、とりわけ高レベル放射性廃棄物処分など、核燃料サイクルの全過程における環境負荷の問題など原子力発電の負の側面が多数指摘されてきた。
中国地方においても、岡山、鳥取県境にある、旧・核燃料サイクル開発機構(現・独立行政法人日本原子力研究開発機構)の事業所にかかわるウラン残土問題があったことは、記憶に新しい。
(4)菅前総理大臣の下、政府の国家戦略室に設置されたエネルギー・環境会議が、2011年(平成23年)7月29日に公表した、「『革新的エネルギー・環境戦略』策定に向けた中間的な整理」では、原子力発電についての依存度を低減し、そのためのシナリオを具体化するとされたが、未だ検討項目の羅列に留まっている状態であり、かつ、「原子力発電への依存」からの明確な脱却は示されなかった。
同年9月13日、野田総理大臣は、臨時国会での所信表明演説において、「中長期的には、原発への依存度を可能な限り引き下げていく」と述べる一方、定期検査後の再稼働を進めることについても言及した。また、野田総理大臣は、同月22日には、国連の原子力安全首脳会合において、原発輸出を継続することを表明した。
2011年(平成23年)7月22日、原子力安全・保安院は、全原発に対するストレステストを指示したため、原発の再稼働は一旦停止した状態であるが、早晩、再稼働の可否を巡る議論が、各立地地域で、具体化することは明らかである。
福島第一原発事故の教訓を真摯に受けとめず、早々に原子力発電の再稼働ありきという路線を打ち出した政府の対応は、全くもって、暴挙であると言わざるを得ない。
(5)原子力災害を二度と起こさず、国民の安全と環境を保全するためには、今こそ、再処理・核燃料サイクル路線を放棄し、原子力依存からの完全な脱却を図るべきである。
(6)福島第一原発事故を受け、2011年(平成23年)6月6日、ドイツは、2022年(平成34年)までに、国内17基全ての原子力発電所を停止するという脱原発政策を公表し、2011年(平成23年)7月8日、その旨を定めた改正原子力法が連邦議会において成立した。
イタリアにおいても、同年6月12、13日、原子力発電所の再開の是非を問う国民投票が行われ、反対票が94.05%と圧倒的多数を占めた。そのため、同国首相は原発再開を断念する意向を示した。
スイスは、同年5月25日、2034年(平成46年)までに稼働中の5基の原発を全て廃止する政策を決定した。
(7)日本においても、政府は、2011年(平成23年)5月6日、中部電力に対し、東海地震による危険が予測される浜岡原子力発電所(以下「浜岡原発」という。)の停止を要請し、同月9日、中部電力は、浜岡原発の停止を決定した。
しかしながら、地震国日本において、危険に晒されている原子力発電所は、浜岡原発のみではない。地震や津波が、他の原子力発電所を襲い、再び甚大な被害をもたらす可能性がある。
(8)既存の原子力発電所の建設当初の想定耐用年数は、30年程度であると言われているが、日本には、既に30年を超過して運転を続けている商業用原子力発電炉が、19基存在する。
原子力発電所の老朽化による、配管の減肉やひびわれ、鋼材の中性子照射脆化等の問題や、これらによる事故の危険性が指摘されている。
(9)中国地方においては、島根県松江市の市街地から約9㎞地点に、島根原発1号機、2号機が設置されており、同3号機が現在建設中である。
島根原発では、敷地から約2㎞南に活断層が確認されており、大地震の発生と地震による原子力発電所の事故の危険性が指摘されている。
特に、島根原発1号機(マークⅠ型原子炉)は、日本で5番目の原子炉として1974年(昭和49年)に運転を開始して以来、既に37年が経過しており、老朽化による設備・機器の損傷や脆化が懸念されている。
(10)また、山口県内においては、中国電力上関原子力発電所(以下、「上関原発」という。)1号機、2号機の新規建設計画が進められている。
上関原発の予定地(山口県熊毛郡上関町長島の最西端)は、光市、周南市、岩国市などの人口密集地に近く、また、漁業資源の豊富な瀬戸内海に面していることから、福島第一原発と同様の事故が発生した場合の影響は大きい。
上関原発においても、活断層による地震の可能性、希少動物保護等環境保護の観点、漁業に対する影響の懸念などから、激しい反対運動が繰り広げられている。
(11)原子力発電所の存在が、国民の、平和のうちに良好な環境の中で生活する権利を脅かすものであることに鑑みるとき、既設の原子力発電所は速やかに廃炉にされるべきであり、原子力発電所のさらなる新増設は、許されるべきではない。
5 原子力に依存したエネルギー政策からエネルギー消費抑制・効率化、再生可能エネルギーを中核とした持続可能なエネルギー政策へ
(1)福島第一原発事故の惨禍を経た今、求められているのは、原子力に依存したエネルギー政策から脱却し、安全で、持続可能なエネルギー政策への転換を図ることである。
そのためには、再生可能エネルギーの導入促進及びエネルギー利用の効率化・消費削減を基幹とした、持続可能なエネルギー政策への転換を図るべきである。
(2)再生可能エネルギーの推進
太陽光、太陽熱、風力、水力、地熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーは、持続可能な低炭素社会の実現の柱となる重要なエネルギー供給源である。再生可能エネルギーの導入は、化石燃料依存を軽減することから、地球温暖化対策として重要な役割を果たすとともに、世界のエネルギー供給の安全保障や新たな雇用創出等において重要な役割を果たしている。
EUでは、「2008年自然エネルギー指令」(2008年1月23日)において、EU27か国全体で、再生可能エネルギーの総エネルギー消費に占める割合を2020年までに20%まで拡大する拘束目標を設定し、加盟各国に導入の割り当てを義務化した。既に、欧州諸国等においては、再生可能エネルギーの導入が進展しており、例えば、ドイツでは、2010年(平成22年)において、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合は11%、電力消費に占める再生可能エネルギーの割合は16.8%であり、デンマークでは、2007年(平成19年)の国内の電力供給のうち29.3%が再生可能エネルギーによるものであった。
さらに、2011年(平成23年)6月、ドイツは、福島第一原発事故を受けて2022年(平成34年)までに国内の原発(17基)を全廃する一方、再生可能エネルギーによる発電割合を2020年(平成32年)までに35%に拡大するという政策を公表した。
2009年(平成21年)1月には、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の設立会合が開催され、同年9月には、日本も加盟し、2011年(平成23年)4月現在、151か国が参加している。
このように、再生可能エネルギーの導入に向けた各国の努力や、国際的な取り組みが行われる状況において、日本の再生可能エネルギー政策は立ち遅れており、一次エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合は、2005年(平成17年)度で、約5%に留まっている。また、再生可能エネルギーによる発電量は、現在、発電総量の約10%を占めているが、その大部分は大規模水力発電によるものであり、太陽光、風力、バイオマスなど純粋な意味での再生可能エネルギーによる発電量は、発電総量の約1%に留まっている。
一方、様々な機関によって、電力分野における再生可能エネルギーの導入可能性が試算され、公表されている。
2011年(平成23年)4月に発表された、環境省の委託に基づく「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」によれば、非住宅系太陽光発電の導入ポテンシャルは、1.5億kW、風力発電は、19億kW、中小水力発電は1400万kW、地熱発電は1400万kWと推計されている。
2008年(平成20年)6月、民間団体である自然エネルギー政策プラットホームは、「2050年自然エネルギービジョン」において、2050年までに最大限導入しうるシナリオでは、国内電力需要の67%を自然エネルギーで賄うことが可能であるとの評価結果を公表した。
日本に今必要とされているのは、再生可能エネルギーの導入を飛躍的に高めるための統合的な政策である。特に、導入効果の高い電力分野において、積極的に導入促進に取り組むべきである
ア 法的拘束力のある中長期的な高い導入目標値の設定
ドイツの再生可能エネルギー法にならい、中長期的な高い導入目標値を法律で定めるべきである。
イ 実効性ある固定価格買取制度の確立
2011年(平成23年)8月26日、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」が成立した。
同法により、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどを用いて発電された電気についての固定価格での買い取りが電気事業者に義務付られることとなった。しかし、同法に対しては、買取価格や買取期間に関する定めを省令に委任しており、発電コストに見合った買取価格を保証していないこと、他の発電電力に優先する買取請求権を明確に保証していないことなどの問題点が指摘されている。
再生可能エネルギーで発電した電力について、投資コストに見合った適切な価格及び買取期間を保障しうる固定価格買取制度を確立すべきである。
ウ 発送配電の分離と送電網の公的管理
発送配電の全てを電力会社が地域ごとに独占してきたことが、真の発電コストの隠蔽や再生可能エネルギー等の市場算入を阻み、原子力発電の推進を可能にしてきた。原子力偏重の政策を改めるためには、発送配電を分離し、再生可能エネルギーに対する固定価格買取制度などのインセンティブは確保しつつ、発電部門を自由化し、送電部門は公的な管理を行い、再生可能エネルギーの送配電網への優先的接続を保障するべきである。再生可能エネルギーは、地域ごとに利用可能なエネルギーの種類やその利用方法が異なっており、このような小規模分散型を特徴とする再生可能エネルギーの接続が可能となるよう送電網を整備することも必要である。
エ 非経済的障壁の除去
再生可能エネルギーの導入の障壁となっている、電力分野における系統連携問題、バードストライクや景観など自然保護にかかる他の問題との調整、慣習的権利との調整などの非経済的障壁の除去に積極的に努めるべきである。
(3)再生可能エネルギー熱政策の必要性
暖房や給湯などの低温熱は、太陽熱、地中熱、バイオマスなどの再生可能エネルギーや、発電に使用した後の廃熱で賄うことが十分に可能である。しかし、日本では、再生可能エネルギー熱政策に関する取り組みは全くなく、逆に、「オール電化」の名の下、電気を熱源にする(大量の廃熱を出しながら発電した電気を送電し、家庭での使用時に電気から熱へ再転換するという)非効率的な消費形態等が推奨されてきた。
この点、ドイツでは、2008年(平成20年)、「再生可能エネルギー温熱法」(Renewable Energies Heat Act)が制定され、新築建物の熱需要を再生可能エネルギーで賄うことの義務付や財政的支援などを定めた。スペインでは、2006年(平成18年)9月以降に新築・改修する一部の建物に対し、太陽熱温水機器の設置が義務づけられた(ソーラー・オブリゲーション)。
日本においても、「熱」の「需要側」からの取り組みとして、建物の新築・改修時に、暖房や給湯などの低温熱需要の一定割合を太陽熱で賄うことを義務づける制度の導入、再生可能エネルギー熱導入に際しての事業者への適切な財政的支援、地域の農林業などの振興も視野に入れた地域分散型熱源の導入に対する支援など、しかるべき再生エネルギー熱政策を推進すべきである。
(4)一層のエネルギー利用の効率化、需要側対策による消費削減
右肩上がりのエネルギー消費を前提とするエネルギー政策ではなく、エネルギー消費の節減を図るエネルギー政策にシフトすべきである。
エネルギーの利用・消費の面においては、エネルギー利用の効率化、需要側対策(デマンドサイドマネジメント)による消費削減に、より一層、積極的に取り組むことが必要である。
例えば、産業・業務部門においては、廃熱・蒸気の再利用の徹底や高効率機器の導入、断熱建築の導入等により、家庭・民生部門においても、住宅の断熱化、電気温水器・電気暖房などの削減、高効率の家電への切り替え、省エネ指導等が上げられる。
(5)以上のような統合的な政策を積極的に推進すれば、原子力に依存したエネルギーからの脱却は可能である。
(6)よって、当連合会は、国に対し、原子力に依存したエネルギー政策から、再生可能エネルギーへの転換及びエネルギー消費抑制と効率的利用を要とする、持続可能なエネルギー政策への移行を図り、そのために実効性のある制度を具体的に実施することを求める。
(7)再生可能エネルギーは、小規模・分散型の特質を持つエネルギーであるため、地域の実情に則した導入が必要であり、また、それが故に、地域住民や自治体が、企画立案から運営までの主体となりうるものである。さらに、地域によって担うことにより、地域社会の活性化や雇用の創出も期待される。
当連合会は、中国地方の各地における再生可能エネルギー導入の取り組みに、法的側面からの支援を行う所存である。
以上の理由から、本決議を提案するものである。
以上