中弁連の意見

 中国地方弁護士会連合会は、少年院を出た少年の社会復帰を支援するため、国に対し、次の内容を含む総合的法制度を整備するよう求める。

 

01.gif 少年院から出院後に自立した生活を営む上での困難を有する少年に対し、少年院の在院中の社会復帰支援を充実させるための専門委員の導入

02.gif 各地の少年院と各県の保護観察所・地域生活定着支援センター・児童相談所との都道府県を跨いだ連携体制の充実

03.gif 各市町村の要保護児童対策地域協議会における保護観察所の参加の奨励と非行少年支援メニューの充実

04.gif 更生保護施設等の増設を含む保護観察対象となる仮退院少年のための少年受入定員枠の拡大並びに多様な内容の支援を可能とする少年専用居住施設の設置

05.gif 保護観察を経ない退院少年でも利用可能な緊急更生保護以外の支援制度の創設

06.gif 少年院を出た少年の就業支援のための協力雇用主の確保を目的とする新たな助成金等の制度の創設

07.gif 少年の家庭復帰を可能とするための家族心理教育などを含む多様な家族支援施策の充実

 

 以上のとおり決議する。

2012年(平成24年)10月12日

中国地方弁護士大会

提案理由

1 はじめに

 2011年(平成23年)版犯罪白書によれば、2010年(平成22年)における全国の少年院の出院者は3,912名である。このうち全体の99.3%にあたる3,883人が仮退院となっており、この仮退院については必要的に保護観察に付されている。この少年院仮退院者のうち不良措置である戻し収容または保護処分取消で終了した者は、それぞれ0.4%、15.4%である。したがって、全体としても15%以上の割合の少年が、原則20歳に達するまでとされている少年院仮退院の期間中に、再非行を含む重大な遵守事項の不遵守で再び少年院に逆戻りしている。

 この再入院率に関し、過去には、2005年(平成17年)時点に、東京都知事から東京都青少年問題協議会に対し「少年院等を出た子どもたちの立ち直りを、地域で支援するための方策について」という内容での諮問がなされたことがある。これに対する2006年(平成18年)10月23日付の答申で、2000年(平成12年)に少年院を出院した者についてその後の2004年(平成16年)までの状況をみるとそのうちの16.7%が少年院に再入院し、7.5%が刑務所に入所しているとのことが述べられている。この答申では、これらの数字について、新たな決意を持って少年院を出たはずの子どもたちが、行政等による支援を必要としているにも関わらずこれまでの仕組みでは十分な支援が届けられていなかったのではないか、ということを問題としている。そして、これに対応するための地方公共団体としての方策が東京都版にとどまるものではあるが提案されている。その後、この2006年(平成18年)の答申から現在までに約6年が経過した。前述の犯罪白書の数字を見る限り、全体の傾向として少年院の入院者が減少していることは認められる。しかし、再入院者の割合はさほど減少していない。以下に例として述べる個別の問題点からも明らかとなることではあるが、この問題に対しては単に一都道府県レベルでの努力では如何ともし難く、現在の通達行政の中での対応を超えた国としての総合的社会復帰支援法制の整備が必要である。

 

2 改正少年院法における円滑な社会復帰のための支援の実施の不十分性と専門委員制度導入の必要性

 少年の社会復帰支援の必要性については、少年院法の改正にあたっても議論されていたものであり、本年、国会に上程された少年院法改正案の第44条第1項には、つぎのように規定されている。

 「少年院の長は、在院者の円滑な社会復帰を図るため、出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者に対しては、その意向を尊重しつつ、次に掲げる支援を行うものとする。

一 適切な住居その他の宿泊場所を得ること及び当該宿泊場所に帰住することを助けること

二 医療及び療養を受けることを助けること

三 就学又は就業を助けること

四 前三号に掲げるもののほか、在院者が健全な社会生活を営むために必要な援助を行うこと」

 この出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者として想定される者の中には、もともとの非行の傾向が重度である者の他、親から虐待されているなどで帰住地のない少年、発達障害や薬物依存とその後遺症などの精神障害を有する少年等、多種多様な少年が含まれている。

 これらのうち、親族等の受け入れ先がないなどで帰住地がない少年については、通達上、各地の地域生活定着支援センター(基本的には刑務所の退所者のうち身寄りのない高齢者・障害者の地域生活支援を中心業務とし、鳥取県では県が設置主体となり約2年前に設置された。運営は厚生事業団が担当している。)の支援対象となっている。仮退院後の住居の確保等を含めた生活支援を保護観察所と協力して地域生活定着支援センターが行える枠組みが一応存在している(但し、これが機能していないことは後述。)。また、帰住地のあるなしに関わらず帰住地の選定にあたっては、在院中から生活環境調整ということで現在も実務上保護観察所が関与する形態で援助体制が組まれている。しかしながら、現在の保護観察所のわずかな人員(全国の保護観察官の総数は約1,000名、そのうち、現場における保護観察に従事する者は約600名と言われる。)を前提とする限り、帰住地のない少年だけの支援ですら在院中の支援としては現状手一杯と思われるのであり、これを超えて、他の類型までのきめ細かい支援を在院中から準備していくことは、通常の少年事件等での保護観察業務をこなしながらでは極めて困難と思われる。

 そのような中で、今回の改正法が目指すとおりの支援を実現していくためには、福祉関係者や心理の専門家、一定期間付添人活動を経験したことのある弁護士、そして少年院OBなどからなる専門委員のチームによる少年1人1人に対する個別のプログラムの実行が必要と考えられる。2009年(平成21年)からは一部の少年院では社会福祉士や精神保健福祉士が少年院の中でサポートにあたっているという実情があるがそれだけでは不十分であり、できれば、その少年の付添人であった弁護士が特別委員として関われる制度が望ましい。現在、篤志面接委員が尽力しており、また、前記少年院法改正案では、少年院視察委員会を新たに設置することも提案されているが、これらは制度目的を異にしており、出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者への個別支援を担当する機関としては機能的に不十分である。

 

3 各地の少年院と各県の保護観察所・地域生活定着支援センター・児童相談所との都道府県を跨いだ連携体制の充実の必要性

 仮退院後は、その少年が住むところとなる場所の保護観察所が、保護観察の枠組みの中で本来的に遵守事項に基づいた指導とともに援助を担っていく。しかし、一旦親元に戻った少年についての援助は、その地の児童相談所の担当でもあり、保護観察所と併行してその業務分野で少年の支援を担っていくことになる。ところが現在、その連携体制は不十分である。

 前述したとおり、親族等の受け入れ先がないなどで帰住地がない少年については、在院中から生活環境調整ということで現在の援助体制が組まれているが、この住居の確保についても児童相談所の援助と重なりあいが生じており、そのことから問題が生じることもある。

 例えば、鳥取県内では、住居の確保の仕方につき、保護観察所管轄での「自立準備ホーム」(2011年(平成23年)4月から緊急的住居確保・自立支援対策として更生保護施設を補完するために新たに認められた。NPO法人などに委託することが念頭に置かれていたが、鳥取県内では児童福祉法の第二種社会福祉事業に位置づけられる施設である「自立援助ホーム」4施設が引き受けている)としての給付金よりも、児童相談所の措置での給付金での方が施設にとって高額であるなどの事情により、仮退院後には児童相談所の措置が優先的に選択され、児童相談所管轄となることが多い。

 しかし、全国的には児童相談所は少年院在院中からの支援に関わっていない。また、県を跨いでの住居の確保にあたっては、この児童相談所の措置費についての各県ごとの助成額が異なることから受け入れを拒否され、なかなか仮退院後の居住地が定まらないケースもある。

 そして、前述した活動が期待される各地の地域生活定着支援センターは、現実には少年の支援にはさほど機能していない。例えば、鳥取県では、センター設立から現在まで2年間の間で1件の少年の支援ケースも引き受けていない。このように地域生活定着支援センターにしても、成人の刑務所出所者の支援をやっと軌道に乗せられるかという段階であり、全国規模で帰住地のない仮退院少年を分散することを前提としての積極的援助を引き受けるところまでは制度が整っていない。

 結局のところ、このようなことが生じる原因は、現在の少年への援助の枠組みが通達行政にとどまっていることに起因していると思われるのであり、少年の社会復帰目的に集中した、各機関・施設間の全国規模での連携体制を充実させるためのしっかりとした法的枠組が必要である。

 

4 各市町村の要保護児童対策地域協議会における保護観察所の参加の奨励と非行少年支援メニュー充実の必要性

 出院後に自立した生活を営む上での困難を有する少年は、言い換えれば児童福祉の関係では保護を要する児童という概念とも整合するものである。現在、2004年(平成16年)の児童福祉法の改正により、虐待を受けた児童などに対する市町村の体制強化を固めるため、関係機関が連携を図り児童虐待等への対応を行う「要保護児童対策地域協議会」が各市町村に設置されている。この地域協議会の対象児童は、児童福祉法第6条の3に規定する「要保護児童(保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童)」であり、虐待を受けた子どもに限られず、非行児童なども含まれることが解釈上明らかとされている。しかしながら、現在、非行児童を明確に、この地域協議会の支援対象として活動に含めているところは全体の約40%程度である。その協議会の構成員として児童相談所は当然に入っているが、保護観察所を構成員としているところは2010年(平成22年)4月1日現在の統計資料では発見すらできなかった。現在ほぼ100%に近い市町村にこの地域協議会が設置されたと見られるが、もともとこの地域協議会の設置自体が市町村の努力義務であることもあり、被虐待児童に対してですら十分な支援体制を組むだけの体制を取れていないと思われる市町村が多数存在する。実際のところ児童相談所も児童虐待対応に追われており疲弊状態と考えられている。そのことからは少年院を出た少年の支援に関しては保護観察所のみならず、地域も特に意識して協力し支援しない限り、少年が再び少年院に逆戻りしてしまう可能性は高い。その受け皿として現在活用可能な制度が、要保護児童対策地域協議会なのであり、この地域協議会に保護観察所が参加することの奨励ならびに非行少年の支援メニューの充実を図るための法的な手当がなされるべきである。

 なお、刑務所出所者を中心とするが少年院仮退院者にも使える制度として、更生保護サポートセンターが2011年(平成23年)度に全都道府県に配備された。この更生保護サポートセンターと要保護児童対策地域協議会との効果的な協力体制についても、今後の検討課題である。

 

5 更生保護施設の増設を含む保護観察対象となる仮退院少年のための少年受入定員枠の拡大並びに多様な内容での支援を可能とする少年専用居住施設設置の必要性

 帰住地のない少年についての保護観察所関連での住居の確保については、本来、自立更生センターなどの国営施設と更生保護法人による継続保護事業並びにその他の法人による継続保護事業の担い手となる更生保護施設が制度的な受け皿となっていた。しかしながら、例えば、鳥取県では更生保護施設である鳥取給産会の現在の少年定員は1名である。この事情は、どの更生保護施設でも同様で各施設1~2名が通常とのことである。そもそも刑務所を出た成人の住居の確保としての支援でも施設の定員不足が指摘されてきた中で、少年院を出た少年の受入定員枠は極めて乏しかった。また、更生保護施設は就労を前提として定職に就くまでの間の住居を確保する建前があることから、まさにその他の支援が必要である等の事情ですぐには就職を前提とできない少年については住居の確保が難しいという事情が存在した。これらの問題に対応するため、前述のように「自立準備ホーム」の仕組みが緊急的住居確保・自立支援対策として2011年(平成23年)に更生保護事業法施行規則の改正によって定められた。しかしながら、これらの施策は、いずれも実際はむしろ刑務所を出所した成人の支援を中心として実施されており、いずれにしても更生保護施設の増設等を含んだ更なる少年定員枠の確保が必須である。また、少年が成長発達の途上にあり家族的な支援を必要としていることからすれば、単に少年を大人の入居者と一緒の施設に放り込むのではなく、仮退院少年を含む少年のみを対象とした更生保護施設の増設や社会福祉士・精神保健福祉士などの配置も視野に入れた多様な支援を可能とする新施設の設置(もしくは現在の自立支援ホームの機能強化)がより望ましい。これらの少年の視点に立った住居確保のための支援法制の見直しが必要である。

 

6 保護観察を経ない退院少年でも利用可能な緊急更生保護以外の支援制度の創設の必要性

 実数は少ないものの少年院を出た少年の中には仮退院ではない退院少年が含まれている。この退院少年については保護観察が付かないことから、本人が更生緊急保護を要請する場合以外については保護観察所が関わるという制度枠組みがなく、前述のような既存の各種の支援が現状では届いていない。これらの退院少年でも利用可能な新たな支援制度の構築が必要である。

 

7 少年院を出た少年の就業支援のための協力雇用主の確保を目的とする新たな助成金等の制度創設の必要性

 2006年(平成18年)度から法務省と厚生労働省との連携により、「刑務所出所者等総合的就労支援対策」が実施されており、その一環として保護観察所において協力雇用主を募集している。これは、刑務所に入っていたことを知った上で雇用してくれるという協力者であり、少年についても同様に少年院出身者であることを前提に雇用してくれる事業主を募集している。

 しかし、この刑務所出所者等総合的就労支援対策は、もともと無職の刑務所出所者等の再犯率が、有職の者と比べ極めて高い(2006年(平成18年)から2010年(平成22年)の間では5倍の差)ということが背景にあり、主として刑務所を出た成人の再犯防止のためのものとなっている。現実には、少年についての協力雇用主のなり手は不足しており、現状では少年が就労を希望しても就職は極めて困難な状況がある。

 前述したように少年が成長発達の途上にあり家族的な支援を必要としていることからすれば、雇用の問題についても住居の問題と同様な観点から、長期的な視野に立ってその成長を支えてくれる雇用主であることが期待されている。しかしながら、このことは少年の雇用がそのままでは短期的に事業上の利益とは結びつかないことをも意味するものであり、協力雇用主のなり手が集まらないことの原因となっている。

 このような問題を解決するためには、現在の雇用奨励のための施策では不十分であり、少年院を出た少年の雇用創設のためのインセンティブとなる新たな協力雇用主に対する助成制度などの積極的な仕組み作りが必要である

 

8 少年の家庭復帰を可能とするための家族心理教育などを含む多様な家族支援施策の充実

 前述したとおり出院後に自立した生活を営む上での困難を有する在院者として想定される者の中には、多種多様な少年が含まれている。

 これらのうち帰住地がない少年については、施設での住居の確保を基礎とする様々な支援が必要となることも前述のとおりである。しかし、両親も親族も既に全員亡くなっていて天涯孤独という少年は数少ないのであり、親との関係をはじめとして家族との間での何らかのトラブルを抱えていることにより、帰住地がないという結果となっている少年が大多数存在しているものと考えられる。

 このような結果が生じている原因は、単に少年本人の側のみに問題があるのではなく、家族との関係性自体に原因が存在している可能性が高い。虐待の問題でも少年の知的障害、発達障害などによる養育上の負担によるストレスが家族の対応能力の限界を超えてしまったことから生じていることも多々あるのである。親子分離を必要とする児童虐待の場合には単なる施設内での生活の安定を目指すのではなく、家族との再統合が必要とされる。そのことと同様に、帰住地がなく施設に入所している少年に対しても可能な限り少年の家族関係を修復することが求められるのであり、これが大きな社会復帰の支援対象分野であることが改めて確認される必要がある。

 この点は、帰住地として親元が少年院を出た後の帰住地となっている場合であっても重要であり、少年非行が少年を少年院に入院させざるを得ない状態まで拡大してしまった背景には、家族の対応能力の問題が横たわっている。この点、包括的リハビリテーションの基礎的な概念である「ストレス-脆弱性-対処モデル」は非行少年を抱える家族の問題を考える上でも有効である。もし家族関係に壊滅的な問題が生じるのであれば、それは防御因子が低下したか、環境的ストレッサーが大きくなったか、対処技術の低下があるか、もしくはそれが効果的でなくなったか、またはそれら全部が相互関係的に悪循環に陥っているかである。少年院入所者の家族関係の調査では片親家庭が多いという状況も、もともと防御因子が低くなっている要因で問題が生じている可能性と結びつくのであり、環境的ストレッサーを軽減し、防御因子へのサポートを高めるといった家族への援助が必要とされていることを示している。

 したがって、この問題は単純に親側に問題があるということを前提にして少年院の親指導権限を積極的に活用するべきという方向でだけ捉えられるべきではない。むしろ、少年院の在院中から出た後までの一貫した家族支援という枠組みで、少年の帰るべき先の家族の対応能力を底上げするための支援が必要であるという点が強調されなければならない。そのための方法論としては、家族教室の開催をはじめとする家族心理教育などを少年院、保護観察所で積極的に導入していくことが考えられるが、これは現在の「指導」の枠組みを超えるものであり、特に保護観察所が継続的な家族援助を効果的に行うためには、更なる法的根拠規定が必要である。

 以上の理由から、本決議を提案するものである。

以上