中弁連の意見

 中国地方弁護士会連合会は、わが国における人権保障を推進し、国際人権基準の実施を確保するため、次のことを政府及び国会に対して強く求める。

 

  1.  国際人権(自由権・社会権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約等に定める個人通報制度を導入すること
     
  2.  国連の「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に合致した真に政府から独立した国内人権機関を設置すること

 

を行うべきである。

 以上のとおり決議する。

2012年(平成24年)10月12日

中国地方弁護士大会

提案理由

1 個人通報制度について

 個人通報制度とは、国際人権(自由権・社会権)規約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約等の人権条約の人権保障条項において規定された人権が侵害されているにも拘わらず、国内での法的手続を尽くしてもなお人権救済が実現しない場合、被害者個人等が、条約機関に対して、直接通報することによって救済を求める制度である。通報を受けた条約機関が行う意見・勧告により、国内での立法、行政措置がなされれば、個別のケースの救済の道が開かれるのである。

 国際人権(自由権・社会権)規約、女性差別撤廃条約及び子どもの権利条約は本体の条約に附帯する選択議定書に個人通報制度を定め、拷問等禁止条約及び人種差別撤廃条約は本体条約の中に個人通報制度を備えている。したがって、個人通報制度を導入するためには、選択議定書の批准、あるいは、本体条約の当該条項の受諾宣言の手続が必要であるが、わが国は、選択議定書の批准をしておらず、または、本体条約の当該条項の受諾宣言をしていないので、個人通報制度は実現していない。

 また、日本の裁判所は、人権保障条項の適用について残念ながら積極的とはいえず、民事訴訟法の定める上告の理由には国際条約違反が含まれないため、国際人権基準の国内実施が極めて不十分となっている。各人権条約における個人通報制度が日本で実現すれば、被害者個人が各人権条約上の委員会に直接審査を仰ぐことが可能となるが、そうなれば、日本の裁判所も国際的な条約解釈に目を向けざるを得なくなる。その結果として、日本における人権保障水準が国際基準まで前進し、また憲法の人権条項の解釈が前進するなどの成果が期待される。

 わが国は、すでに自由権規約委員会からは1993年(平成5年)、1998年(平成10年)、2008年(平成20年)と3回も個人通報制度を定める自由権規約の第一選択議定書の批准を勧告され、女性差別撤廃委員会、人種差別撤廃委員会、拷問禁止委員会等からも個人通報制度の受け入れを強く勧告されている。

 日本政府においても、2009年(平成21年)に政権与党となった民主党は、個人通報制度の実現を政権公約として掲げ、外務省内には人権条約履行室も設置された。加えて、2011年(平成23年)12月9日に国連総会で採択された「個人通報手続に関する子どもの権利条約選択議定書」(第三選択議定書)においては、日本政府も共同提案国となっているが、いまだ個人通報制度の導入は実現されていない。

 OECD加盟30か国やG8の8か国など、いわゆる経済先進国の中で個人通報制度を有しないのは、唯一日本のみである。

 

2 国内人権機関の設置について

 国連決議及び人権諸条約機関は、国際人権条約及び憲法などで保障される人権が侵害され、その回復が求められる場合には、司法手続よりも簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するように求めており、多数の国が既にこれを設けている。

 国内人権機関を設置する場合、1993年(平成5年)12月の国連総会決議「国内人権機関の地位に関する原則」(いわゆる「パリ原則」)に沿ったものである必要がある。

 具体的には、当該機関に人権の促進と保護の権限を付与され、人権侵害の救済、人権教育及び人権保護促進のための政策提言に関しできるかぎり広範な職務を与えられること、当該機関の権限が憲法または法律で定められること、当該機関の権限の独立性が保障されていること、委員及び職員の人事並びに財政等においても独立性が保障されていること等が必要とされている。

 日本に対しては、国連人権理事会、人権高等弁務官等の国連人権諸機関や人権諸条約の各政府報告書審査の際に、早期にパリ原則に合致した国内人権機関を設置すべきとの勧告がなされており、また、国内の人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。

 現在、わが国には法務省人権擁護局の人権擁護委員制度があるが、独立性等の点からも極めて不十分な制度である。

 このような状況の中で、日本弁護士連合会は、2008年(平成20年)11月18日、パリ原則を基準とした「日弁連の提案する国内人権機関の制度要綱」を発表した。

 さらに、2010年(平成22年)6月22日には、法務省政務三役が「新たな人権救済機関の設置に関する中間報告において、パリ原則に則った国内人権機関の設置に向けた検討を発表するなど、国内人権機関設置に向けた機運は高まってきている。

3 日本弁護士連合会は、2010年(平成22年)5月28日、国内人権機関の設置、個人通報制度の実現を求める総会決議をした。さらに、当連合会のうち、鳥取県弁護士会が2010年(平成22年)12月18日、岡山弁護士会が2011年(平成23年)2月26日、広島弁護士会が2011年(平成23年)5月23日、山口県弁護士会が2012年(平成24年)2月10日に、各々同趣旨の総会決議をしており、また、島根県弁護士会は、2012年(平成24年)8月27日付で同趣旨の会長声明を表明した。
 当連合会としても、わが国における人権保障を推進し、また国際人権基準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するため、各人権条約に定める個人通報制度を一日も早く導入し、パリ原則に合致した真に政府から独立した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して強く求めるものである。

 

 以上の理由から、本決議を提案するものである。

以上