中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、総務省、消費者庁及び内閣府消費者委員会に対し、以下のことを行うよう求める。

1 総務省、消費者庁及び内閣府消費者委員会に対し、以下の点につき調査すること

(1)ソーシャルネットワーキングサービス(以下「SNS」という。特に利用者の登録時に本人確認を十分に実施していないもの。)が詐欺行為や消費者被害(以下「詐欺行為等」という。)の誘引手段として使用されている実態

(2)SNS事業者による本人確認の実態及びその記録の保管状況

(3)SNS利用者を特定する情報について、弁護士法第23条の2に基づく照会がなされた場合のSNS事業者の対応状況

2 総務省に対し、上記1記載の調査を踏まえ、SNSを詐欺行為等のツールとして利用させないための被害予防及び被害回復に向けた実効性のある対策を講じること

3 消費者庁及び内閣府消費者委員会に対し、上記1記載の調査を踏まえ、総務省が上記2記載の実効性ある対策を速やかに講じるべく、総務省に対する適切な働きかけ又は意見表明を実施すること

 

以上のとおり決議する。

 

2023年(令和5年)10月27日

中国地方弁護士大会

提案理由

 

第1 はじめに

スマートフォンの普及に伴い、LINE、Facebook、Twitter、Instagram等の様々なSNSが登場し、普及した。その結果、SNSは、デジタル社会においては生活に不可欠なコミュニケーションツールとして、生活インフラとなっている。

他方で、SNS事業者による本人確認規制等が不十分であるためか、SNSが詐欺行為等に使用される事件が多発し、多くの事案において被害回復がなされないままとなっている。

本決議は、今後、各関係機関において、速やかにこのような実態を調査した上で、SNSを詐欺行為等のツールとして利用させないための実効性のある対策を講じることを求めるものである。

 

第2 SNSが詐欺行為等に多用されている実態

1 SNSが関わる消費者トラブルが多発していること

令和4年版消費者白書によると、SNSに関連する消費生活相談件数は、2017年(平成25年)の15,709件から、2021年(令和3年)の50,406件へと急増し、2017年(平成25年)と2021年(令和3年)を比較すると、5年間で3倍以上の件数となっている。

SNSに関連する相談としては、①SNSの広告が契機となるケース、②SNSでの勧誘が契機となるケース、③SNSで知り合った相手との個人間取引のケースなどがみられる。

特に、②については、SNSでの勧誘が契機となって、情報商材や転売ビジネス、副業、投資等のもうけ話を持ち掛けられ、高額な契約をしてしまうケース等があり、看過できない。

広島県内において情報商材被害に関する相談の受け皿として活動している情報商材被害対策広島弁護団には、2019年(令和元年)は63件、2020年(令和2年)は65件、2021年(令和3年)は107件、2022年(令和4年)は97件の相談が寄せられており、副業、投資に関する被害が広島県においても多発している状況がある。

最近の被害傾向の典型は、次のようなものである。ある時、被害者がYouTubeに掲載された「何もしなくても収益が得られる。」旨の広告に興味を持ち、広告の誘導に従いウェブサイトにアクセスすると、LINE登録を行うことを求められる。その後、LINEのトークに相手方からメッセージが送信され、LINE通話により情報商材の説明をしたいとの打診がなされる。被害者がこの相手方の求めに応じて、LINE通話を行うと相手方の電話勧誘が始まる。相手方の勧誘内容は、「確実に利益を上げられる」といった断定的判断の提供等を伴うことが多く、利益の約束の下に契約の締結を迫られた被害者は、勧誘を受けたその日のうちに、消費者金融からの借り入れやクレジットカード決済により数十万円から時には数百万円の支払いを行わされる。

そして、上記弁護団によれば、このような情報商材詐欺被害のほぼ全ての事案において、被害者と相手方とのやりとりにおいてLINEが用いられているとのことである。

2 LINEが詐欺行為等に多用されていること

そして、これらの被害のうち、現在、LINEが詐欺行為等のツールとして利用されている事案が非常に多い。

LINEヤフー株式会社(以下「LINE社」という。)が提供する「LINE」の国内月間アクティブユーザー数は2022年(令和4年)6月末時点で月間9200万人にも上り、日本の人口の70%以上とされている。その上LINEは、かつて詐欺行為等に主に利用されてきたツールである携帯電話等と同様の機能(音声・ビデオ通話、文字でのやり取り、写真やPDF等のデータの添付が可能)を有しているため、LINEが詐欺行為等に利用されている事案が多くなるのも当然である。

LINE社が、自社のHP上で公表している捜査機関からの照会に対する情報開示の状況についての2016年(平成28年)から2022年(令和4年)までのレポートによれば、日本の捜査機関がLINE社に対してした開示請求の要請件数は、概ね3000件前後で推移しており、LINEが何らかの犯罪に利用されたと捜査機関が認知した件数が非常に多く、減少していないことが分かる。

3 携帯電話等に代わり、SNSが犯罪ツールとして用いられるようになっていること

(1)かつて犯罪ツールの主流であった携帯電話について

かつて、振り込め詐欺等の特殊詐欺や生活経済事犯等において、匿名で契約された携帯電話が多用され、多くの被害を生み出していた。

これを受けて、2006年(平成18年)4月に携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認及び携帯音声役務の不正な利用の防止に関する法律(以下「携帯電話不正利用防止法」という。)が施行され、携帯電話事業者に契約者の本人確認を身分証明書等の公的な本人確認書類で行うことが義務付けられた。

その後、2008年(平成20年)12月施行の改正により、レンタル携帯電話業者等が規制対象に加えられるなどした。

さらに、本人確認義務がなかった電話転送サービスが詐欺行為等のツールとして利用されるようになると、電話転送サービスについても、2013年(平成25年)4月施行の犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)改正により、本人確認義務が課せられるようになった。このように、犯罪ツールの主流であった携帯電話等は、取締法規によって本人確認規制が強化され、犯罪ツールとしては用いられにくくなった。

(2) SNSが詐欺行為等に利用されていることについて

他方で、SNSを利用した組織的詐欺等事件や、エステ契約に係る詐欺事件、暗号資産(仮想通貨)投資名下の詐欺事件、金融商品取引法違反事件や出資法違反等事件、連鎖販売取引契約締結の勧誘に係る特定商取引法違反事件など、SNSを利用した詐欺行為等が目立ってきている。

詐欺行為等に及ぶ者たちは、本人確認規制が強化され匿名性を維持しにくくなった携帯電話だけでなく、本人確認が不十分で、匿名性を維持したまま勧誘可能なSNSを重要なツールとして用いるようになっていると考えられる。

 

第3 SNS事業者による利用時における本人確認の状況

1 SNS事業者による本人確認が不十分であることについて

日本国内で最大規模のSNSであるLINEの個人アカウントにおける本人確認の状況は、以下のとおりである。

(1)住所、氏名(実名)、生年月日の登録が不要であること

LINEアカウントの新規登録をする場合、住所、氏名(実名)、生年月日等個人情報の入力は不要であり、公的な本人確認書類による確認もない。また、新規登録の際にアカウントのユーザー名の入力は必要であるものの、これは任意に設定することができるため、実名である必要はない。

(2)電話番号の入力及びSMS認証について

LINEの新規登録をする場合には、2020年(令和2年)4月上旬頃までは、Facebookログインによる新規登録が認められていたが、それ以降、電話番号の入力及びSMS(ショートメッセージサービス)による個人認証(以下「SMS認証」という。)などが必要となった。

SMS認証は、一定の本人確認機能を有するものであるが、必ずしもLINEの新規登録希望者と当該携帯電話を所持している契約者の一致を保証するものではない。さらにLINEでは、登録された電話番号が他者に表示されることはないため、LINEの利用者は、相手方の電話番号を知ることはできず、相手方が任意的に登録した名前とプロフィール画像しか知り得ない。

(3)小括

このように、LINEの新規登録においては、2020年(令和2年)4月上旬頃以降、新規登録を行うには電話番号の登録及びSMS認証が必要となったものの、新規登録の際の本人確認が、必ずしも十分とはいえない。

以上のような本人確認が不十分である実態は、利用率の高い多くのSNS事業者に共通している。

2 SNS事業者に対する本人確認の法規制が不十分であること

現在の取締法規上、以下のとおり、SNS事業者に対し、本人確認義務を課す規定は存在しないと考えられる。

(1)電気通信事業法

LINE社を含むSNS事業者は、電気通信事業法に規定される電気通信事業者として電気通信事業の届出を行っている。

しかしながら、同法上、電気通信事業者に本人確認義務は課されていない。

(2)携帯電話不正利用防止法

携帯電話不正利用防止法は、「携帯音声通信事業者」に対し本人確認義務を課している(第3条第1項、第2条第3項)。

しかしながら、LINE等のSNSは、携帯電話の無線回線を利用して音声を送受信しているのではなく、インターネット回線によるデータ通信を音声に転換するアプリケーションソフトを利用して音声通話を行う仕組みであるから、「携帯音声通信」には該当しない(同法第2条第1項)。

そのため、LINE社等のSNS事業者は「携帯音声通信事業者」に該当せず、同法に基づく本人確認義務は課されていない。

(3)犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法は、電話受付代行業者や電話転送サービス事業者等を特定事業者として定めている(第2条第2項第44号)。そして、特定事業者に対し、本人特定事項等の取引時確認義務(同法第4条)や取引時確認記録の作成及び保存(同法第6条)、疑わしい取引の届出(同法第8条)を課している。

しかしながら、前述のとおり、LINE等のSNSは電話回線を利用しない通話であるため、同法の特定事業者には該当しないと解され、本人確認義務は課されないと解されている。

(4)小括

SNS事業者自身による本人確認が不十分であるのは、そもそもSNS事業者に対する本人確認の法規制が不十分であることにも原因があると考えられる。

 

第4 LINEについては特に被害の回復が困難であることについて

1 被害回復の必要性と弁護士会照会制度

(1)原則として、SNS事業者は、契約者情報等についての弁護士会照会に対する回答義務を負うこと

SNSが詐欺行為等のツールとして利用される事案は増加傾向にあり、その被害はいうまでもなく速やかに回復されなければならない。そのための手段として、民事訴訟の提起や交渉を行うために、弁護士法第23条の2に基づき、SNS事業者に対し、加害者を特定するための契約者情報(電話番号等)について照会を行うことが一般的となっている。

弁護士会照会制度は、弁護士が基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とすることに鑑み、受任事件を処理するために必要な事実の調査等を容易にし、当該事件の適正な解決に資することを目的としており、国民の権利救済の実現に資するという司法制度の根幹に関わる公法上の重要な役割が認められていることから、照会先は、報告を求められた事項について、照会をした弁護士会に対し、正当な理由のない限り、報告をする公法上の義務を負っている(最判平成28年10月18日民集第70巻7号1725頁)。

そして、SNS事業者に対して契約者情報の照会に対する回答を求めても、通信の秘密を侵害するおそれはない。

総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(令和4年個人情報保護委員会・総務省告示第4号)の解説」(2022年(令和4年)3月)は、弁護士会照会と通信の秘密との関係について、以下のとおり説明している。

「原則として照会に応じるべきであるが、電気通信事業者には通信の秘密を保護すべき義務もあることから、通信の秘密に属する事項(通信内容にとどまらず、通信当事者の住所・氏名、発受信場所、通信年月日等通信の構成要素及び通信回数等通信の存在の事実の有無を含む。)について提供することは原則として適当ではない。なお、個々の通信とは無関係の加入者の住所・氏名等は、通信の秘密の保護の対象外であるから、基本的に法律上の照会権限を有する者からの照会に応じることは可能である。」

(2)SNS事業者に対する弁護士会照会制度が事実上機能しにくくなっている実情があること

しかし、SNSをツールとする詐欺行為等については、以下に述べるとおり、本来有用であるはずの弁護士会照会制度が事実上機能しにくくなっているという実状があり、被害回復のためには、その改善が急務となっている。

特に、上記のとおり、国民の70%以上に普及し、コミュニケーションツールとしての社会的インフラとなっているLINEについては、以下のとおり、LINEを用いた詐欺行為等からの被害回復が困難となっている現状がある。

2 詐欺行為等の加害者が利用するLINEのアカウントを特定できる情報が、被害者のLINEメッセージ画面から確認できないこと

詐欺行為等の被害者が、民事訴訟の提起や交渉を行う目的で詐欺行為等に関与した加害者を特定しようとした場合、加害者のLINEのアカウントを特定し得る情報としては、①加害者が登録した電話番号、②加害者のLINEのID又は③加害者の名前等が考えられる。

しかし、①加害者の登録電話番号や②LINEのIDは、被害者のメッセージ画面には表示すらされないため、被害者がそれらを確認することはできない。また、そもそも②LINEのIDの登録は任意であり、加害者のLINEのIDを知らずともメッセージのやり取りはできるため、被害者は、加害者のLINEのIDの登録の有無を知らないことが多い。③加害者の名前は、被害者のLINEのメッセージ画面に表示されるが、この名前は実名である必要はなく、ニックネームでもよいし、名前は随時変更可能な仕様であるから、加害者を特定する情報にはなり得ない。

このようにLINEでは、被害者が、詐欺行為等に関与した加害者を特定する情報を、LINEメッセージ画面からは得られないことがほとんどである。

そのため、被害者が、民事訴訟の提起や交渉を行う目的で、詐欺行為等に用いられたLINEアカウントについて、LINE社に対し、加害者を特定するための契約者情報(電話番号等)について照会しようとしても、そもそも加害者を特定するためのLINEのIDの情報すら持たないことから、LINE社に対し照会手続すら行うことができないという問題が生じている。

3 LINE社が弁護士会照会への報告に消極的であること

前記のとおり、LINE社に対する弁護士会照会においても、個々の通信とは無関係で、報告がなされたとしても通信の内容が推知されないものについては、「通信の秘密」には該当せず、LINE社が、弁護士会照会に対し、個々の通信の内容が推知されない契約者情報(電話番号等)に係る報告を行ったとしても、通信の秘密を侵害するおそれはない。

しかし、被害者が、詐欺行為等に関与した加害者のLINEのIDを把握できている場合であったとしても、LINE社は、詐欺行為等に関与した加害者を特定するための契約者情報(電話番号等)の弁護士会照会に対して報告することにこれまで消極的な態度をとってきた。

例えば、LINEでのやり取りで金員を詐取したような詐欺事件において、依頼者の協力を得て加害者のLINEのIDを特定し、LINE社に対し、加害者の登録電話番号について弁護士会照会を行ったが、「諸般の事情を総合的に考慮した結果、(中略)回答いたしかねます。」といった、具体的な理由を示さずに報告を拒絶した事例が複数存在している。

このような状況から、詐欺行為の加害者のLINEのIDを把握できたとしても、結局、詐欺行為等に関与した加害者を特定するための端緒すら得られず、被害回復を図ることが困難となっている。

4 詐欺行為等に関与した加害者がLINEアカウントを削除することで、報告がなされない可能性があること

弁護士会照会に対し、LINE社から報告拒絶の回答書が届いた事案の中には、「対象アカウントが退会しているので調査できない。」旨の回答も複数存在している。

LINE社がこのような運用を行っているとすれば、詐欺行為等に関与する者らは、被害者から金員を詐取等した後にLINEアカウントを削除することで、自身らを特定する情報を抹消することができ、結果的に詐欺行為等に及んだ者らは容易に責任追及を免れることになる。

とりわけ、詐欺行為を行う者らは、詐欺の証拠等を残さないように、短期間で連絡手段を変更する等の証拠隠滅を行うのが一般的であり、詐欺行為に使用したLINEアカウントをいつまでも残しておくはずがない。

こうしたLINE社の仕組みないし運用が維持されるならば、LINEが利用された詐欺行為等の場合は、被害回復の端緒すら得られないという深刻な状況が続くことになる。

 

第5 実情の調査及び実効性のある対策がなされるべきであること

1 調査及び実効性ある対策の検討をする必要があること

詐欺行為等を行う者は、被害者と複数回にわたって連絡を取る必要があることから、自らの匿名性を維持できるツールは必要不可欠である。

そのため、かつては匿名で契約された携帯電話や本人確認義務のなかった電話転送サービスを用いるなどされていたが、携帯電話不正利用防止法の成立・改正や犯罪収益移転防止法改正により本人確認規制が強化されて、ツールとしての有用性が相当程度失われた。

そこで、詐欺行為等に及ぶ者たちは、携帯電話等だけでなく、本人確認が不十分で匿名性を維持できるSNSに有用性を見出し、現在、LINE、FacebookやInstagram等が詐欺行為等のツールとして利用され、多くの事案において被害回復がなされないままになっていると思われる。

よって、総務省、消費者庁及び内閣府消費者委員会は、まず、これらのより正確な実態を把握するための調査をした上で、SNSを詐欺行為等のツールとして利用させないための実効性ある対策を検討する必要がある。

2 考えられる実効性のある対策について

SNSを詐欺行為等のツールとして利用させないための実効性のある対策として、以下のような措置が考えられる。

(1)SNS事業者による適切な本人確認・本人確認記録の保管

携帯電話や電話転送サービスにおいて本人確認義務を導入したことによって詐欺防止への一定の抑止効果が認められたという実績を踏まえ、SNS登録時(登録済みアカウントにあっては、今後の利用継続時)における本人確認を適切に行わせることが考えられる。具体的には、SNS事業者は、必要に応じて、利用者の電話番号のみならず氏名・住所・生年月日等を公的な本人確認書類によって確認することが望ましいが、少なくとも電話番号の登録及びSMS認証を確実に実施することが不可欠である。

また、詐欺行為等に関与した加害者を特定するための契約者情報について、弁護士会照会がなされたとしても、SNS事業者が同情報を早期に削除して、調査不可能として報告を拒絶してしまえば、同照会の意味がない。そこで、犯罪収益移転防止法が定めるように、たとえ加害者がSNSのアカウントを削除したとしても、SNS事業者が同加害者の特定情報を直ちに削除することのないよう、本人確認記録の適切な保管等を行わせる必要がある。

本人確認等規制の方法としては、取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律の第3条において、取引デジタルプラットフォーム提供者の努力義務が定められていることなどが参考になる。同条では、取引デジタルプラットフォーム提供者は、①消費者が販売業者等と円滑に連絡できるための措置、②消費者からの苦情に係る事情の調査等、表示の適正確保に必要な措置、③販売業者に対して、所在情報を始め、その特定のために必要な情報(身元確認情報)を提供させることなどの措置を講ずるよう努めなければならないとしている。

(2)被害者が加害者のアカウントを特定する情報を容易に確認できるようにすること

SNSを用いた詐欺行為等を行う者らについて、加害者を特定し、民事訴訟等により法的責任を追及することも被害救済と被害予防のために必要な措置であり、そのためには、被害者が、詐欺行為等に関与した加害者のアカウントを特定し得る情報を容易に確認できる仕様にすることが望ましい。具体的には、被害者からのSNS事業者に対する通報や、被害者が依頼した弁護士からの通知等に基づき、LINEのID等の加害者アカウントを特定し得る情報を開示する等、加害者のアカウントの特定を容易にするような適切な措置が講じられる必要がある。

(3)弁護士会照会に対して適切に報告すべきことを周知徹底すること

詐欺行為等に関与した加害者を特定するための契約者情報について、弁護士会照会がなされた場合、照会先に報告義務があることを踏まえ(前掲・最判平成28年10月18日)、照会先であるSNS事業者は、事案及び照会事項に応じて適切に報告をしなければならず(電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン参照)、一律ないし原則報告拒絶の対応は許されない点を、総務省及び業界団体を通じて周知徹底させる必要がある。

また、SNS事業者の規約・プライバシーポリシー等において、弁護士会照会に対し、報告(情報開示)がなされる場合があることを明記することも検討されるべきである。

 

第6 結語

SNSを詐欺行為等のツールとして利用させないための実効性のある対策を講じ、安心安全なSNSの利用環境を整えることは、利用者を詐欺行為等の危険性から保護し、被害回復に資するのみならず、SNSから利用者が遠ざかることを回避し、信頼性のあるSNS事業者の利益にも資するものと考える。

よって、各関係機関において、速やかに実態を調査の上、適切な対策を講じること等を求め、本決議を行う。

 

以上