中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会は、中国地方の全ての県及び市町村に対し、全てのケアラーを支援するための条例を制定し、これを実効的に運用することを求める。

 

以上のとおり決議する。

 

2023年(令和5年)10月27日

中国地方弁護士大会

提案理由

 

第1 提案の背景

1 ケアラーとは何か

ケアラーについては、現在、法律上の定義はなされてはいない。

全国初のケアラー支援に関する条例である埼玉県ケアラー支援条例(2020年(令和2年)3月31日公布・施行)では、「高齢、身体上又は精神上の障害又は疾病等により援助を必要とする親族、友人その他の身近な人に対して、無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供する者」(第2条)とされている。また、そのケアラーのうち、18歳未満の者は特に「ヤングケアラー」と定義されている。

要するにケアラーとは、高齢者や障がい者、子ども、病人等の援助を要する近親者等に対して、無償で日常生活上必要な援助(ケア)を提供している者、と言えよう。

2 ケアラーについて支援を求める必要性

もともと多くの市民は、親族、友人その他身近な人に対して、自分以外の家族や身近な人と協力しながら無償で介護、看護、日常生活上の世話その他の援助を提供していた。しかしながら、少子化・核家族化、ひとり親家庭の増加といった事情により家族の人数が少なくなり、無縁社会化により友人その他身近な人との関わりも薄くなってきている。さらに、少子高齢化が進行していることから、介護を必要とする人々や、家庭内で介護負担を余儀なくされる人々の数や割合もまた増えている。

すなわち、現代社会においては、これまでよりも一人で介護や世話を担う状況が生じやすく、その状況が長期化しやすいといえる。

介護や世話を担う立場の人も、子どもから高齢者まで多様化しているが、①ケアラーが子どもの場合、子ども自身の生活に問題が生じることはもちろん、同年代との交流が疎かになってしまったり、教育機会を十分に確保できなくなったりする状況に陥るし、②ケアラーが子どもや若年層の場合、介護の負担や周囲の無理解から進学や就職、婚姻等に支障が出るということが想定される。また、③ケアラーが子育て世代の場合、子育てと介護の「ダブルケア」を抱える状況に陥る、介護のために勤務条件が限られ、場合によってはいわゆる介護離職をせざるを得なくなる、④ケアラー自身が高齢となれば、気力・体力が低下している中でも高齢の配偶者等の介護を担う「老々介護」の状況に陥る等、各年代によって多様な問題が生じている。

このような状況の中で、行政サービス等により労力の負担が軽減されるだけでは回復できないケアラーの人生上の苦悩についても配慮しつつ支援を行っていく必要がある。とりわけ、就労環境や家庭環境など生活への悪影響や、進学・就職・婚姻・出産などの重要なライフイベントへの悪影響、心身の健康や発達への悪影響について、誰がどのような支援をなし得るかが問題になってきている。

これまでは、被介護者である高齢者や障がい者が国や地方自治体の介護に関する支援策の対象者の中心として据えられ、ケアラーの苦悩については、支援を要すべき問題としてあまり焦点を当てられてこなかった。被介護者支援を検討する局面においては、ケアラーの存在はいわば「資源」であり、ケアラーの負担については、考慮されていなかったわけではないとしても、軽視されていたことは否めない。今後は、ケアラー自身の人生に影響を及ぼす問題であると我々が認識することが必要である。

我が国の憲法は、「すべて国民は、個人として尊重される。」(第13条前段)、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」(第25条第1項)、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」(第25条第2項)と定めている。ある国民が、その家族等について支援を要する状態であるからといって、進学や就職などを通じて幸福を追求する権利が失われることがあってはならないし、介護の負担から休息も余暇もとることができないような状態となっていれば、それは生存権が侵害されているというべきである。したがって、ケア負担のためケアラー個人の権利が十全に保障されていない状況を放置することは許されない。本来国が支援を必要とする者への支援制度を充実させるとともに、ケアラーを支援するための法令を整備するなどして解決すべきである。

令和5年7月9日、厚生労働省が、2024年度(令和6年度)の介護保険事業の基本指針に、「認知症高齢者の家族、ヤングケアラーなど家族介護者支援に取り組むことが重要」との文言を盛り込む予定との報道がなされた。「ヤングケアラーなど家族介護者」という表現からすると、詳細は不明ながら国としてもケアラー全般に対する支援について着手しようとしていることが期待される。そうすると、各地方自治体においては、条例等を整備して積極的に住民の福祉を守るために施策を講ずべきといえる。ケアラーの支援をすることは、当然ながら、高齢者、障がい者、子ども、病人その他ケアを必要とする市民の福祉にもつながるのであり、全ての国民の幸福を追求するためにも、今後はケアラーを、「支援を要する当事者」として位置づけ、具体的な支援体制を構築することが求められる。

 

第2 ヤングケアラーの支援について

1 ヤングケアラーの実情

ヤングケアラーとは、法律上の定義はないものの、厚生労働省においては、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どものこととされている。

ケアラーはそれぞれの年代で様々な問題を抱えていて、それぞれに支援を要していることは既に述べたが、ヤングケアラーについてはさらに、ヤングケアラー自身が本来はケアされるべき、心身の発達途上の子どもであるという特徴を有する。

2022年(令和4年)3月に株式会社日本総合研究所がヤングケアラーの実態調査の報告書を作成しており、この調査は、無作為に選ばれた全国350校の小学校に在籍する小学6年生約2万4500人(回答数は9759件)を対象にした調査である。

 

同調査によれば、①世話をしている家族の有無については、6.5%が世話をしている家族がいると回答していることが分かった。

また、②世話をしているためにやりたいけれどできないこと、については次のような調査結果となっている。

    「自分の時間が取れない」             15.1%

    「友達と遊ぶことができない」           10.1%

    「宿題など勉強をする時間がない」          7.8%

    「眠る時間がたりない」               6.7%

 

この調査結果からは、多くのヤングケアラーが世話のために自らの生活や友達との交流を犠牲にしているという深刻な実態が読み取れる。

さらに、③世話にかける時間としては、平日4時間以上を世話に費やすとの回答が20.4%存在するが、これは決して軽視してはならない数値である。なお、7時間以上を世話に費やしているとの回答が7.1%も存在しているが、このことも、この問題の深刻さを如実に示している。

2 ヤングケアラーは何を望んでいるか

前記実態調査においては、家族の世話をしていると回答したヤングケアラーに対して、望むサポートの内容も調査している。

   ヤングケアラーが望むサポートは次のとおりであった。

     「自由に使える時間がほしい」           15.2%

     「勉強を教えてほしい」              13.3%

     「自分のことについて話を聞いてほしい」      11.9%

     「行っている世話の一部を誰かに代わってほしい」   6.5%

 

このように、ヤングケアラーは、相談できる相手や大人の支援を求めており、また、ケアのために疎かになりがちな自身の学業について悩んでいることが分かる。

一方で、本調査において、学校や大人にしてもらいたいことについては「特にない」が50.9%と最も多かった。しかしながら本結果をもって、ヤングケアラーの大半がサポートを必要とするほどの問題を抱えていないという評価に繋げることは早計であり、妥当ではない。ヤングケアラーが、若年であるためあるいはケアと生活と一体となっているため、自身の状況を客観的に見ることが難しく、「この状況は当たり前である」「支援を受けるほどのことではない」と認識してしまうという場合もありうるからである。

3 ヤングケアラー支援の課題

18歳未満のケアラーであるヤングケアラーは、未成年者として、その教育を受ける権利(憲法第26条第1項)が保障されるべきことはもちろんのことである。そして、次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、その権利の擁護が図られ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指すべき(こども基本法第1条)であることからすれば、ヤングケアラーの負担を軽減するための立法的行政的施策は必要不可欠である。

また、ヤングケアラーは、子どもの権利条約が保障している意見表明権(第12条第1項)、適切な情報・資料にアクセスする権利(第17条)、健康・医療への権利(第24条第1項)、生活水準への権利(第27条第1項)、教育への権利(第28条第1項)、休息・余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加の権利(第31条第1項)が侵害された状態にある可能性が高く、同条約を批准している日本は、これらの権利を保障するための措置を講じなければならない。

また、こども基本法第5条では「地方公共団体は、基本理念にのっとり、こども施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その区域内におけるこどもの状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。」と規定されている。そして、その基本理念について、同法第3条は、その健やかな成長及び発達並びにその自立が図られること、教育を受ける機会が等しく与えられること、多様な社会的活動に参画する機会が確保されることなどが掲げられている。中国地方においても同様の実情があれば、中国地方の各地方自治体においても、こども基本法第5条に基づきヤングケアラーを支援すべき法整備を行う必要がある。

以上のような我が国の法令及び批准した条約からすれば、家庭内におけるケア負担が過重であるため教育の妨げとなり又は余暇活動を充分に行い得ない状況にあるヤングケアラーを放置することは許されないものである。

しかしながら、ヤングケアラーを支援すべきとの明確な法整備は未だなされていない。もっとも、国は2022年(令和4年)、厚生労働省にこども家庭庁を設置し、ヤングケアラー支援体制強化事業実施要綱を各地方自治体に向けて発信した。同要綱は、地方自治体がヤングケアラーに関する調査や早期発見、あるいは支援等を行う施策を実施するに際して国庫補助を受けうることを前提に、どのような事業を実施すべきかを示した技術的助言であるが、事業例としては、①ヤングケアラー・コーディネーターの配置、②ピアサポート(ケアラー経験者によるサポート)等相談支援体制の推進、③オンラインサロンの設置・運営、支援などが挙げられている。こうした厚生労働省が企図する事業の方向性は、前記調査結果に沿った内容となっているものといえよう。

現在、多くの地方自治体では、ヤングケアラーからの相談を受け付ける部署や受付電話番号が設定されているようである。岡山県内においても、主要な市においては相談窓口となる担当電話番号を確認することができた。もっとも、実際に架電して実情を聴取すると、前記①ないし③のような具体的な相談場所やコーディネーター等の設置や、それ以外の新しい行政支援が用意されているわけではなく、単に現状提供可能な行政サービスに繋げるというものであり、単に地方自治体窓口や代表電話に相談するのと大差ないものといえる。

つまり、ヤングケアラーについては、支援等の施策が求められている現状を国が認識し、地方自治体に対して施策の実施を求めているにもかかわらず、各地方自治体としては条例整備や具体的施策実施についての見通しが必ずしも明らかではない状況である。子どもたちへアプローチしやすい教育現場を管轄しているのは主に地方自治体であり、各地方自治体は速やかにヤングケアラーに対する支援を、条例や具体的な施策を通じて実施すべきである。

 

第3 成人ケアラー支援について

1 成人ケアラーの実情

ケアラーの中で、ヤングケアラー以外の、つまり18歳以上でケアを担っている存在を指す用語についてはあまり一般的ではない。このことは、当該属性のケアラーが可視化されておらず、支援から取り残されていることを意味している。

18歳以上30歳代のケアラーについては、これを「若者ケアラー」と位置づける支援団体も存在するようである(一般社団法人日本ケアラー連盟)。若者ケアラーとして年齢に着目して切り分けられているのは、この年代のケアラーが、就職、婚姻、出産といったライフイベントに直面し、その際にケアラーであることが大きく影響しがちであるという実情もあろうと思われる。しかし若年期を過ぎた老壮年のケアラーも、それらのライフイベントに直面することがあるほか、前記のとおり、介護離職や老々介護問題等があり、決してなおざりにされるべき存在ではない。

若者、あるいは老壮年ケアラー(以下総称して「成人ケアラー」と呼称する。)については、一応は国が支援策を打ち出しているヤングケアラーと異なり、これらの属性に対する支援施策は存在しない。直面する問題によって、介護保険制度や障がい者支援制度による既存の行政サービスが案内され、高齢者や障がい者への行政サービスの結果、負担の軽減がいわば反射的に図られているにすぎない。

「ヤング」と限定しないケアラー全般についての支援を打ち出す条例を制定したのは、令和5年4月3日時点では、前記埼玉県ほか鳥取県その他合計6つの道県、及び岡山県総社市、同備前市を含む12の市と町のみである。

成人ケアラーを含むケアラー全般に関する全国実態調査はいまだ実施されていないが、埼玉県が地域包括支援センターを利用しているケアラーのうち1415名を対象に実態調査(回答率72.2%)を実施している。同調査によれば次のようなことが分かった。

まず、ケアラーの内、いわゆる現役世代とも言うべき20~50代の割合は、26%であった。ケアのために退職、あるいは転職するなど就労状況に問題が生じている割合は24.4%である。これは、前記現役世代に限定せず回答を得ているため、ケアラーの現役世代については多くが就労環境に影響を生じていると推察される。なお、就労状況に問題が生じている割合24.4%には、「ケアのため就労経験がない 2.3%」が含まれていることを付言する。

ケアに要する時間として、4時間以上を要するとの回答は36.8%にのぼり、当然ながら、ヤングケアラーより多くの時間をケアに費やしている実情が分かる。

なお、やや古いが2010年(平成22年)に実施された5つの地方自治体住民に対する抽出調査(NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンによる)では、有効回答数1万663件中、ケアラーであると自覚している人の割合は19.5%であった。調査実施団体がケアラー問題を提起している団体であることや、ヤングケアラーの比率(4.1%)などを考慮すると、直ちに同調査の割合が全国的なケアラーとしての負担を受け入れている市民の割合とは断言できないが、それでも相当な割合でケアラーが存在することがうかがえる。

2 成人ケアラーは何を望んでいるか

成人ケアラーが希望する支援については、前記埼玉県が複数回答可能として調査をしており、回答者の内20%以上が回答したもののみに絞って紹介すると、「電話や訪問による相談体制の整備」「ケアラーに役立つ情報の提供」「気軽に休息や睡眠が取れる機会の確保」「気軽に情報交換できる環境の紹介・提供」「緊急時に利用できてケアの相手の生活を変えないサービス」などがあげられた。

これらの回答状況からは、成人ケアラーは、相談や情報交換、あるいは一時的なヘルパーのような存在を希望していることが分かる。特に、「気軽に休息や睡眠が取れる機会の確保」と「緊急時に利用できてケアの相手の生活を変えないサービス(つまり、自分の代わりにケアを行ってくれる人を一時的に派遣して欲しいということであろう。)」とは表裏一体とも言うべき希望であり、成人ケアラーの負担軽減は喫緊の課題と言うべきである。近年、こうした一時休止ができるような支援を「レスパイト支援」と呼んでいる。

また、あくまで一時的な支援や情報交換を希望するケアラーが多いことからすると、ケアラーたちは必ずしも被介護者を施設に預けてしまうことを希望しているわけではないことも分かる。当然ながら、ケアラーが支援しているのは家族であり、家族の支援をするのは多くの人にとって、それが負担となるとしても喜びに感じることも多いのである。このことを、「ケアには価値がある」と表現するケアラーもいる。ケアラーの支援にあたっては、このことを忘れてはならないであろう。

3 成人ケアラー支援の課題

とはいえ成人ケアラーについては、ヤングケアラーのように所轄省庁が明確ではないためか、未だ具体的かつ包括的な支援施策が打ち出されていない。

これは、冒頭述べたとおり、従来、国や地方自治体の介護に関する支援策では、被介護者が支援対象者の中心として据えられており、ケアラーは、被介護者支援のためのいわば「資源」と位置づけられ、その負担に対する支援の必要性が軽視されていたという意味で、支援対象者としての当事者性を失っていたからであると推察される。

例えば、法律の中には高齢者に対するケアラーを「養護者」と定義して、「養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。」と定めた条文がある。高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第14条第1項である。

同条文は、当該条文のみをみれば、ケアラーの負担を軽減すべき措置を講ずるよう求めることができると読めなくもないが、そもそもの法律が虐待防止のために制定されたものであり、あくまで虐待防止のためケアラーの負担軽減をするという位置づけでしかない。ここではケアラーは、支援の対象ではなく、高齢者虐待をしないよう行政が指導監督すべき存在として扱われている。

子どもについて、幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指すべきであることは先に述べたとおりである。しかしながら、18歳以上の、若年、壮年、あるいは老年のケアラーにも、個人として尊重され、幸福を追求する権利がある(憲法第13条)。また、あまりにもその負担が過酷で生活上の問題を生じるとすれば、それは健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(憲法第25条第1項)が侵害されているといえる状況にある。

そうすると、ケアラー自身が支援を欲したときに必要な支援を実現することは、国及び地方自治体の責務であることは当然であり、ケアラー自身が支援を要する状況にあると気づけること、そして、ケアラーの現状について適切に把握することなど、どのように支援していくかの道筋を付けて段階的に実現していくべきであることは当然というべきである。

 

第4 これからケアラーを支援するために

1 支援の必要性についての再確認

ケアラーはその年齢や置かれている立場は様々ながら、いずれも責任感を持ってケアを実施していることから様々な困難を抱えており、ケアラー自身もケアを要する場合がある。このことをまずは認識しなければならない。

このうち、ヤングケアラーにあっては、ケアに時間を割かれることで学校生活や友人関係において、本来子どもが経験しうることを経験する機会を奪われがちであること、進学や就職問題において、ケアを優先した選択を取る等、自らの意思や考えを尊重・優先して生き方を選択していく自由を奪われがちであるといった問題がある。そうでないケアラーであっても、被介護者のため諦めなければならなかった人生の選択肢があること、余暇を楽しみ休息を取ることが限定されているといった問題があり、それを口に出すことができない状況となっていた。

これらの問題に直面しているのは、我々の隣人たちである。介護に疲れ果てて高齢の親を殺害した子であり、障害児施設入所支援が受けられず自分のキャリアを諦めた親であり、家族に被介護者を抱えているため親に甘えられず、家事や家計補助のためアルバイトをする同級生である。

年代を問わず、ケアラーが気軽に相談できる窓口を欲していることは既に明らかである。それは、支援の端緒になるだけでなく、ケアラーの抱える多様な思いや悩みを相談できる場として有用になるはずである。

また、自分自身が支援を要するケアラーであると自覚しづらいという現状や、「家庭のことなので相談しにくい」と相談から遠のいてしまう現状もある。したがって、ただ相談窓口や居場所を設置するだけではなく、早期発見のための支援体制の整備(とりわけヤングケアラーについては状況からして必要な措置を取るべき場合もありうる。)や、関係機関のケアラーへの意識向上も必要不可欠である。また、相談窓口について、ケアラーが対象ということを強調すると、自己認識としてケアラーではないと考えているが困っている人を取りこぼす可能性がある点にも配慮が必要である。

ケアラーへの支援は、最終的には国が法整備をして施策を講ずべきであることは言うまでもない。しかしながら、住民と直接に接する各地方自治体においては、法整備を待たずとも、具体的な啓蒙活動や実態調査を通じて成人ケアラーの状況を確認し、必要かつ実効的な施策を講ずべき責務と実行する能力が存在するはずである。各地方自治体のケアラーの実情に応じた施策を、実際に市民サービスの最前線に立つ地方自治体が検討して実施することが急務であり、まずは各地方自治体による条例制定や実効的運用による支援を求めるものである。

2 行政に求められる具体的施策

ケアラーを支援するために、行政的施策として求められるものとしては、例えば次のようなものが想定される。

  ① ケアラーの実態に関する調査・研究

全てのケアラーの実態に関して調査を行い、その結果に応じて、支援、実施、評価等に係る調査研究を進め、効果的な支援を図る。さらに、ケアラーのニーズ調査や支援の効果測定等を実施し、より効果的な支援を推進する。

実態調査は効果的な施策推進の前提情報を獲得するものであるから、調査の実施により各地域のケアラーの置かれている現状について把握する必要があるし、また、調査結果を周知することで国民的関心を引き起こすべきである。

  ② 啓発・情報提供

広報紙、ウェブサイトなどにより、ケアラー及びケアラー支援の必要性や相談先等について広域的な情報提供を行う。また、研修や講座を開催し、行政職員、教職員、専門職、事業者、市民などへ知識と情報・ノウハウを提供する。これは、ケアラー自身への啓発と、ケアラーを支える人材への啓発の双方が必要ということに留意が必要である。

  ③ レスパイト支援(一時的な休憩のための支援)の提供

ケアラーに代わって一時的に介護等を担う人材を準備し、ケアラーが休息をし、あるいは余暇を楽しむ機会を提供する。

  ④ ピアサポート、ケアラー同士や当事者団体との情報交換の場の設定

ケアラー同士、あるいはケアラー経験者との情報交換が行える場所を設定する。

  ⑤ 人材養成

研修や講座を開催し、ケアラー支援に精通した専門職、行政職員、教職員、事業者及び市民を養成する。

  ⑥ 総合相談支援の実施

広域的な市町村横断的な電話相談や情報提供窓口を設置する。心の相談等広域相談が可能な内容や市町村をカバーする相談の仕組みを作るとともに、必要な支援に繋ぐ。

  ⑦ 仕事と介護の両立支援

介護休業制度や介護保険制度の利用についてのアドバイスや働き方の相談、あるいは企業・関係団体への働きかけを通じ、就労継続支援事業を策定する。

  ⑧ 地方自治体内企業との協力・連携

介護離職防止、就労環境整備等のための企業支援を行うとともに、介護や療育にかかる制度の利用等について情報提供を行う。

  ⑨ 地方自治体内専門職団体との協力・連携

専門職研修の実施や実施協力、情報提供を行う。

  ⑩ 地方自治体内市民活動団体等との協力・連携

市民、ボランティアの人材養成、支援及び市民活動団体等ケアラー支援資源のネットワークの形成と地域への情報提供、事業費助成等を行う。

  ⑪ 市町村の取り組み支援

市町村への情報提供やツールの提供、人材の養成支援を行う。

  ⑫ 都道府県への支援推進協議会等の設置

都道府県レベルで、その管内の関係団体、専門職、当事者団体、有識者等による協議の場を常設する。

3 小括

以上のような施策は、既に紹介した実態調査で明らかになった、ヤング、成人を問わず、あらゆるケアラーの負担やケアラーが希望する支援内容について、これに応えてケアラーの負担を緩和し、ケアラーの生活を支援するものである。

これらの施策は、個々の住民に対する支援施策の最前線にいて、状況把握や施策の効果把握がもっともやりやすい、地域社会の最小行政単位である市町村が、その実情に応じてなすべきものである。

そうすると、ケアラー支援のために直ちに動くべきは、都道府県や市町村等の責務であって、直ちに条例を制定し、あるいは既にある条例を実効的に活用するなどしてあらゆるケアラー支援のために施策を実行すべきである。

 

第5 結語

以上より、決議の趣旨のとおり、中国地方の全ての県及び市町村に対し、全てのケアラーを支援するための条例を制定し、これを実効的に運用することを求める。

 

以上