中弁連の意見
中国地方弁護士会連合会は、国に対し、消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律の2022年(令和4年)6月1日施行後もインターネット上の詐欺的な定期購入商法の被害件数が高止まりしている事態を踏まえ、直ちに以下の法令等の整備をすることを求める。
1 定期購入契約に係る広告画面において、①商品・特定権利・役務の分量を表示義務(特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)第11条)の対象に追加すること、②初回分の価格・数量と2回目以降の価格・数量・回数を分離して表示する方法を禁止すること、③支払総額・引渡し総数量及び引渡し総回数(無期限の場合は例示として1年当たりの金額・数量・回数等)を消費者が見やすい位置に消費者が容易に認識できるよう表示すべきこと、④初回分の価格が特別に有利であるかのような表示や「お試し」等の定期購入契約であることと矛盾する表示を禁止すること、⑤その他、特商法第11条に掲げる事項及び商品・権利・役務の分量について人を誤認させる表示(例えば、「いつでも解約可能」と表示しながら実際には連絡が容易につかず解約が困難であったり、「返金保証」としながら実際には厳しい条件が付されていてほとんど返金されない等の表示)を禁止することを、特商法に規定すること。
また、定期購入契約の表示に限らず、広告画面に関する表示の具体的な在り方についても、通達に伴うガイドラインを設け、具体例と判断の目安を明示すること。
2 定期購入契約に係る特定申込画面において、①初回分の価格・数量と2回目以降の価格・数量・回数を分離して表示する方法を禁止すること、②支払総額(無期限の場合は1年分等)・引渡し総数量及び引渡し総回数を消費者が見やすい位置に消費者が容易に認識できるよう表示すべきことを、特商法又は省令に明確に規定すること。
3 インターネット通信販売業者が特定申込画面を通じて契約の申込みを受けたときは、申込者に対し、最終確認画面を遅滞なく電磁的方法により提供する義務及び同義務に違反した場合は当該契約を解約できることを、特商法に規定すること。
4 インターネット通信販売業者が、広告画面(アフィリエイト広告を含む。)及び勧誘動画を、広告掲載中止から1年間保存する義務及び契約者の請求に応じて開示する義務を、特商法に規定すること。
5 広告表示において、①特商法第11条各号の表示義務に違反して不実の表示又は表示をしない行為をしたこと、並びに②本決議の第1項の②から⑤に掲げる表示事項及び商品の品質・効能若しくは役務の内容・効果に関する表示事項について人を誤認させるような表示を行ったことにより、消費者が誤認して契約を締結したときは、これを取り消すことができることを、特商法に規定すること。
6 定期購入契約について特約により解約を認める場合、契約申込の方法と同等の解約申出方法(例えば、ウェブサイトを通じた申込みであればウェブサイトを通じた解約申出)を設定する義務を、特商法に規定すること。
7 定期購入契約について、中途解約権の確保、及び、事業者から消費者に対する損害賠償額の上限規制を、特商法に規定すること。
以上のとおり決議する。
2024年(令和6年)10月25日
中国地方弁護士大会
提案理由
1 「詐欺的な定期購入商法」の横行と2021年(令和3年)法改正
(1)2021年(令和3年)法改正に至る経緯
いわゆる「詐欺的な定期購入商法」とは、インターネット通信販売等の広告において、初回分について無料とする又は低額な金額を表示するなどし、あたかも初回分だけのお試しの契約であるかのように強調しながら、実際には2回目以降の高額な定期購入契約を附帯させるなどの巧妙な手口による定期購入商法をいい、これに関する消費生活相談が2015年(平成27年)以降急増した。
そこで、2020年(令和2年)8月19日、消費者庁特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会は、「詐欺的な定期購入商法」への対応を内容とする報告書(以下「検討委員会報告書」という。)を公表した。検討委員会報告書では、「詐欺的な定期購入商法」の具体的な手口として、①消費者が定期購入であることを容易に認識できないような形で表示を行う手口、②消費者に定期購入であることを明示的に示しつつも「いつでも解約可能」と称して契約を締結させ、解除に応じない又は解除のハードルを意図的に上げ、明示しない手口が挙げられた。そして、「詐欺的な定期購入商法」を念頭に、顧客の意に反して申込みをさせようとする行為等を独立した禁止行為として規制の実効性を向上させること、法執行を強化すること、解約権等の民事ルールを創設すること、特定商取引法に基づくガイドラインを見直すこと等を提言した。
(2)「詐欺的な定期購入商法」にかかる2021年(令和3年)法改正
消費者庁は、検討委員会報告書を踏まえ、インターネット通信販売における通信販売事業者が設定した様式により申込を受け付ける特定申込画面における表示について、商品等の分量、対価、支払時期、引渡し時期、契約の解除に関する事項を表示することを義務付け(特商法第12条の6第1項)、契約の申込みとなることや一定の事項について人を誤認させるような表示を禁止し(同法第12条の6第2項)、これらについて罰則の対象とし、誤認して契約を締結した場合の取消権を設け、適格消費者団体の差止請求の対象とするなどの措置を講じた。そして、2023年(令和5年)4月21日付け「特定商取引に関する法律等の施行について(通達)」の別添9「通信販売の申込み段階における表示についてのガイドライン」(以下「申込み段階の表示についてのガイドライン」という。)において、特定申込画面における表示すべき事項等の具体的な表示例を定めた。
(3)改正法施行前後の「詐欺的な定期購入商法」の相談件数の推移
全国の消費生活センターに寄せられる定期購入に関する相談件数は、2015年(平成27年)の4,141件から2020年(令和2年)の59,575件へと14倍を超える激増となり、そのため、2021年(令和3年)法改正により規制強化対策が講じられた。
もっとも、その法改正後の相談件数をみると、2021年(令和3年)は51,453件と若干減少したものの、改正法が施行された2022年(令和4年)は75,478件と再び急増し、2023年(令和5年)は98,101件に至っている。月別の件数をみても、2023年(令和5年)1月から同年3月まで各月1万件を超えた後、同年6月以降は約5,500件から6,500件程度で推移しており、高止まりしている状況である。
島根県の消費者センターで受け付けた定期購入関連の相談件数に限っても、2021年度(令和3年度)は155件、2022年度(令和4年度)は275件、2023年度(令和5年度)は214件であるほか、2024年(令和6年)1月以降の月別件数は、1月が16件、2月が17件、3月が21件、4月が20件とやはり高止まりしている状況が見て取れる。
このように、「詐欺的な定期購入商法」に対する対策として法改正が行われたにもかかわらず、その施行後も相談件数が高止まりしている現状に鑑みれば、2021年(令和3年)法改正は、悪質業者に対する被害の歯止めとして機能しておらず、改正内容が消費者の保護には不十分であったと言わざるを得ない。
(4)行政処分件数が少ないこと
定期購入商法に関する膨大な消費者相談件数があるにもかかわらず、行政処分件数は少なく、2021年(令和3年)に2件、改正法の施行日(2022年(令和4年)6月1日)以降でも2023年(令和5年)に1件、2024年(令和6年)3月に1件、同年4月に2件にとどまっている。
行政処分に踏み切れないのは法規制の曖昧さが一因と言うことができ、こうした状況からも、2021年(令和3年)法改正は、「詐欺的な定期購入商法」に対して十分に機能していないと言わざるを得ない。
(5)「詐欺的な定期購入商法」の手口
「詐欺的な定期購入商法」の手口は、以下のとおり、従来から継続している手口、従来の手口を微修正した手口、改正法施行後に急増した手口等、様々なものがある。これらの脱法的な手口全てに十分対応できるような法整備が必要である。
ア 特定申込画面の微修正
広告画面の表示においては、2021年(令和3年)法改正前の定期購入商法の手口を維持するが、改正法により規制が強化された特定申込画面においては、初回分の格安価格等の表示を囲みの中で強調表示し、2回目以降の契約条件は欄外に注意書きのような形式で表示する方法を維持しつつ、2回目以降の表示について2021年(令和3年)法改正前よりも文字を少し大きくし、やや近い場所に表示する手口がある。消費者は、広告画面の初回無料又は初回格安価格を強調した表示や「お試し」等の表示により、1回のみの契約と誤認して契約する。また、広告画面の「定期縛りなし」又は「いつでも解約可能」等の表示によりいつでも解約できると誤認するが、実際には解約は電話のみとされていて電話が繋がらなかったり、解約に身分証明書の添付が必要等で容易に解約できなかったりする。このような手口により、特定申込画面において露骨な不当表示を行っていなくとも、広告画面の段階の誤認が是正されないまま申込みに至ってしまうのである。このような通信販売業者は、申込み段階の表示についてのガイドラインには違反していないと主張する。
イ アフィリエイト広告の悪用
アフィリエイト広告(通信販売業者が広告表示の作成及び掲出について成果報酬を伴って第三者に委託する広告)においては、商品の効能・効果及び格安なお試し価格を強調し、かつ「定期縛りなし」又は「いつでも解約可能」等と明示するが、広告のリンク先の通信販売業者の自社サイトでは露骨な虚偽誇大広告を控える手口が使われることが多い。消費者は、アフィリエイト広告の画面表示を見て実質的に購入意思を形成することが多く、自社サイトの広告表示や申込画面・確認画面の表示が虚偽誇大広告でなくとも、アフィリエイト広告画面による誤認が是正されないまま申込みに至ってしまう。
さらに、アフィリエイト広告の多くは、個別消費者の閲覧履歴等に応じて広告を掲出するターゲティング広告やポップアップ広告の手法を用いるため、消費者が実際に閲覧したアフィリエイト広告に再度アクセスできず、不当表示であったことの裏付けが困難であるという問題がある。このような手口は従来から継続して生じている。
ウ 「いつでも解約可能」と表示されるが、実際にはできない
「お試し」等の表示とともに定期購入契約であることの表示はあるものの、広告画面にも申込確認画面にも「いつでも電話で解約可能」と表示しておくことにより、消費者はお試しで購入してみようと考えて申込みを行うが、解約申出方法は電話に限定されており、何度電話をかけてもほとんど繋がらず、そのうち次の商品発送日を経過するという手口である。解約申出期間を不合理に限定する条件を付すことにより、事実上解約申出のタイミングを失うケースもある。このような手口も、従来から継続して生じている。
エ 注文確定ボタンを押した後に「特別割引クーポン」が表示される
広告画面や申込画面では「定期縛りなし」という表示があり、最終確認画面に進み注文確定画面を押すと、「今だけ特別割引クーポン1000円引き」というポップアップ広告が表示され、これを押すと、先ほどと同じ形式の最終確認画面に初回分価格から1000円値引きした金額が表示されるが、欄外の注意書きが定期購入条件の表示にすり替わっているという手口がある。2021年(令和3年)法改正後に急増している手口である。
「特別割引クーポン」のポップアップ広告は、別のコース契約に変更する新たな広告画面であるから、広告表示義務(特商法第11条)を満たす必要があるところ、同表示義務を満たしていないと思われる。しかし、注文確定ボタンを押さないと現れない広告であるため、事後的に検証することが困難である。
オ 「全額返金保証」、「初回無料」、「キャンペーン価格。あと〇分〇秒」、その他の表示等
①「満足できない方には全額返金保証」と強調する広告画面を表示し、消費者が契約申込後に実際に返金を申し出ようとすると、「定期購入期間の毎日のアンケートを記載。使用した空パッケージを全部返送」等の想定外の厳格な条件を付している手口、②定期購入の広告画面に「初回無料」、「お試し」等の継続的契約条件の存在と矛盾するような表示をする手口、③「キャンペーン価格。あと〇分〇秒」とカウントダウンの表示を行い、消費者に冷静に検討する時間を与えない手口、④ポップアップ広告で「キャンペーン価格980円!お申込みはこちら」等の有利な条件のみを表示し、消費者がその他の条件を読まないままに申込み確認画面に移動させる手口がある。これらの手口は、従来から継続して生じている。
2 実効性ある法規制の在り方
(1)決議の第1項(広告画面における誤認させる表示の禁止)について
2021年(令和3年)法改正においては、特定申込画面についての改正が中心であり、広告画面については十分な改正が行われなかった。
しかしながら、消費者がインターネット上の広告画面を見て注文する取引は、広告画面から申込画面に進み最終確認画面に至る一連の表示事項の中で特に強調される表示に注目して契約内容・条件を認識するものであり、最終確認画面だけを適正化すれば誤認を解消できるというものではない。逆に、広告画面において契約内容・条件を誤認してしまった消費者は、申込画面や最終確認画面においてよほど明示的に誤認を是正させる表示がない限り、当初の誤認が継続したまま契約の申込みに進むことがほとんどだと言える。
そうであれば、一つの定期購入契約における支払総額や引渡し数量についてことさらに初回分と2回目以降に分離表示することは、消費者に対し契約条件を誤認させる手口の典型であるから、特定申込画面における禁止事項とするにとどまらず、広告画面においても同様に禁止規定を設けるべきである。
また、定期購入契約の条件が附帯している契約について、初回分の価格が特別に有利であるかのように強調する表示又は「お試し」等の用語を用いた表示は、定期購入契約であることと矛盾する表示であり、消費者の誤認を誘発するものであるから、広告表示においても禁止されることを、特商法に規定すべきである。
このほか、広告画面における不当表示を実効的に防止するため、申込み段階の表示についてのガイドラインと同様にガイドラインを設けて、広告画面における誤解を招く表示の具体例と判断の目安を明示すべきである。また、同ガイドラインにおいては、ポップアップ広告画面に有利な条件のみを表示する事例が禁止されること及び「解約保証」等と表示しながら解約に条件がついていて容易に解約できない事例が禁止されることも明示すべきである。
(2)決議の第2項(申込確認画面の初回分と2回目以降の契約条件の分離表示の禁止等)について
申込み段階の表示についてのガイドラインでは、特定申込画面における表示すべき事項等の具体的な表示例が定められているところ、初回分の価格・数量等と2回目以降の価格・数量等を分離して表示する手口を禁止できておらず、それが被害拡大の一つの要因となったと考えられる。
すなわち、申込み段階の表示についてのガイドラインの【画面例8】においては、「「お試し価格」の表示や通常価格よりも減額された初回代金の表示のみを強調しているにもかかわらず、定期購入契約の主な内容については、これから離れた画面下部にしか表示していない」ことを理由に特商法第12条の6第2項第2号違反に該当するおそれのある表示として指摘する。また、【画面例9】においても、「「お試し価格」の表示や通常価格よりも減額された初回代金の表示のみを強調しているにもかかわらず、これらの表示と比較して、定期購入契約の主な内容について小さな字でしか表示していない」ことを理由に第12条の6第2項第2号違反に該当するおそれのある表示として指摘するにとどまる。かかる説明は、2回目以降の契約条件を「離れた画面下部」に表示することや「小さな文字」で表示することのみを禁止し、初回分と2回目以降の契約条件を分離表示すること(初回分の価格のみ目につきやすい枠内に記載し、2回目以降の契約条件を近くの枠外に同じ程度の大きさの文字で記載する場合等)自体を明示的には禁止していないように読める。悪質な定期購入業者は、申込み段階の表示についてのガイドラインをこのように解釈して、初回分と2回目以降の分離表示はガイドラインに違反していないとしばしば主張している。
つまり、1個の定期購入契約として締結したものであるから、各回の価格、分量、回数に加え、定期購入の全回数の支払総額、引渡し総数量及び引渡し総回数(期間の定めがない場合は1年分等)を一体的に、消費者にとって見やすい箇所に消費者が容易に認識できるように表示することが契約条件表示の基本でなければならないのに、ことさらに初回分と2回分以降を分離表示することが許容されるかのようなガイドラインであることが、消費者を誤認させる手口の利用の継続を許容し被害を増大させた要因であると考えられる。
したがって、単にガイドラインの一部修正にとどまらず、特商法又は省令上に、価格・数量等の一部と他の部分を分離表示する行為を禁止する規定等を設け、消費者を誤認させる手口を明示的に禁止すべきである。
(3)決議の第3項(最終確認画面を申込者に提供する義務)について
特商法第12条の6は、特定申込画面における義務的表示事項と誤認を招く表示の禁止を規定し、違反に対する取消権も規定しており、一般的には最終確認画面がこれに当たるところ、現実には消費者が最終確認画面を保存していることは少なく、事業者の提供義務を規定していないため、消費者にとっては申込み時に表示された契約条件が明らかではない。そうすると、事業者が契約条件不開示のまま、その不透明さを利用して、消費者に不利な契約条件を押し付けたり、消費者の取消権の主張に対して事業者が取消権は発生していないと主張したりするなどして事実上救済ができない状態に陥ることが少なくない。
旧来型の通信販売について契約書面交付義務が規定されていないのは、カタログ通販等で広告表示事項の義務付けを課した広告が消費者の手元に残っていたり、いつでも再確認できる状態にあったりすることが通例であることが前提となっていた。これに対し、インターネット通信販売の場合は、最終確認画面が消費者の手元に残されていないため、契約内容の表示が正確であったか否かを事後的に確認することが困難である。最近は、消費生活センターにおける消費者啓発として、インターネット通信販売を利用する際は、広告画面から最終確認画面までのスクリーンショットを残すよう呼びかけを行っているが、こうした自衛措置の呼びかけだけでは被害の未然防止の実効性確保は困難である。
そこで、インターネット通信販売業者が特定申込画面を通じて契約の申込みを受けたときは、その申込者に対し、当該特定申込画面を遅滞なく電磁的方法により提供することを義務付けるべきである。インターネット通信販売業者の一般的な運用を見ても、申込を受けた契約内容を電子メール等により申込者に提供する取扱いが広がっており、最終確認画面の提供義務を課すことは過大な義務負担にはならないと言える。
そして、提供義務に違反した場合は当該契約を解約できるものとすることは、特商法第12条の6の元々の趣旨であると考えられる契約内容の透明性の徹底の趣旨にも合致し、かつ同法第15条の4による取消権の実効性を確保する観点から、必要かつ相当な法制度であると考えられる。
(4)決議の第4項(広告画面・勧誘動画・申込画面の保存義務及び開示請求)について
インターネット広告画面及び勧誘動画は頻繁に改変することが容易であり、消費者が契約を申し込んだ時点の広告画面及び勧誘動画を後日確認することは困難となる場合が多い。とりわけ、ターゲティング広告やポップアップ広告は、消費者側で後日再アクセスすることが困難である。また、アフィリエイト広告の場合、委託元の通信販売業者は、自社の広告ではないとして契約申込当時のアフィリエイト広告を特定し開示する対応をしないのが現状である。
そのため、広告画面及び勧誘動画に誤認を招く表示があったと消費者が主張しても、通信販売業者がそのような広告表示ではないと否認すると、消費者側で誤認を招く表示の証明ができないために救済されない結果となる。すなわち、インターネット広告における不当な広告表示の抑止力がほとんどない状態でもある。
そこで、インターネット通信販売業者は、アフィリエイト広告を含む広告画面及び勧誘動画について、広告掲載中止から取消権行使期間である1年間(特商法第15条の4第2項及び同法第9条の3第4項)、当該広告及び勧誘動画を保存し、申込者の請求により開示する義務を規定すべきである。
(5)決議の第5項(誤認契約の取消権)について
ア 特商法第15条の4は、特定申込画面における義務的表示事項(同法 第12条の6第1項)に関する不実表示若しくは不表示又は特定申込画面における誤認を招く表示(同法第12条の6第2項)により消費者が誤認して申込みの意思表示を行った場合、当該特定申込みの意思表示の取消権を規定している。
しかし、前述したとおり、広告画面により誤認した状態で特定申込画面の記載内容を読んでも、その誤認が解消されないまま申込みに至ることは多いと考えられる。特に、特定申込画面の表示事項ではない商品・役務の品質・効果について広告画面において不実表示がある場合は、特定申込画面で誤認が解消されることはおよそあり得ない。
したがって、特定申込画面に人を誤認させる表示があった場合に取消権を認めるのみでは不十分であり、広告画面において特商法第12条の6第1項に違反するような表示があった場合に、特定申込画面についての同法第15条の4と同様の取消権を認める必要がある。
そこで、アフィリエイト広告を含む広告画面における①義務的表示(特商法第11条)に関する事項や②決議の第1項に掲げる表示事項について、表示をしない行為又は人を誤認させる表示が行われ、消費者が誤認して申込みの意思表示を行った場合は、当該意思表示を取り消すことができるとの規定を設けるべきである。
イ 化粧品や健康食品等の定期購入契約においては、商品・権利・役務の品質・効能等に関する虚偽・誇大広告を伴っている場合が多い。例えば、美容クリームの定期購入契約において、「目元のたるみやしわが3日で消える」等の広告が行われている場合である。このような虚偽・誇大な表示による商品の品質・効能・効果についての誤認と、定期購入ではないという誤認又は定期購入であっても容易に解約できるという誤認等が相まって、消費者が定期購入契約を締結してしまう被害が非常に多い。
よって、特定申込画面においては契約条件に関する誤認を招く表示が取消権の対象であるのに対し、広告画面においては、商品・役務の品質・効能・効果に関する誤認を招く表示が行われた場合においても、消費者がこれを誤認して契約の申込みの意思表示を行ったときは、申込の意思表示を取り消すことができることを規定すべきである。
なお、特商法第12条は、「著しく事実に相違する表示をし、又は実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」という限定的な要件を規定しているが、消費者の取消権については同法第15条の4と同様に「人を誤認させるような表示」という要件とすべきである。
ウ 特商法は、不特定多数に向けた広告表示と申込行為を開始した特定の消費者に対する表示とを区別して、後者についてのみ取消権を付与している。
この点につき、最高裁判所判決(最判平29.1.24)は、原審判決が、不特定多数に向けた広告の表示は消費者契約法第4条の「勧誘」に当たらない旨判断したことに対し、「事業者が、その記載内容全体から判断して消費者が当該事業者の商品等の内容や取引条件その他これらの取引に関する事項を具体的に認知し得るような新聞広告により不特定多数の消費者に向けて働きかけを行うときは、当該働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えることもあり得るから、事業者等が不特定多数の消費者に向けて働きかけを行う場合を上記各規定にいう「勧誘」には当たらないとしてその適用対象から一律に除外することは、上記法の趣旨目的に照らし相当とは言えない。」との判断を示した。インターネット取引の手順は、広告画面を見てそのまま申込画面を通じて契約の申込みに至るものであるから、新聞折込広告を見て電話で申し込む場合以上に、広告の表示内容による働きかけが個別の消費者の意思形成に直接影響を与えるものである。そうだとすれば、上記の最高裁判所判決の趣旨からしても、少なくともインターネット取引においては、不特定多数に向けた広告表示と申込行為を開始した特定の消費者に対する表示とを区別する必然性はないものと考えられる。
この点からも、不特定多数に向けた広告画面における誤認表示について取消権の対象となることを明示的に規定すべきである。
(6)決議の第6項(解約権と解約申出方法の確保)について
定期購入商法の手口の中には、「いつでも解約できる」と強調する表示によって、消費者がいったんお試しの範囲で購入・使用してみようと考える行動を引き出し、実際に解約申出をしようとすると電話がほとんど繋がらないという事態が横行している。こうした事態を意図的に作出するような手口は消費者の立場では事前に確認しようがない悪質な方法であり、多数の事例を集約しなければ判定が難しい点で、解決困難な手口である。
また、契約申込手続をウェブサイト上で受け付けているのに、解約申出をウェブサイト上で行えないことも不均衡である。
そこで、定期購入契約について解約を認める定めを設ける場合には、契約申込手続と同様の手続を設けること(例えば、ウェブサイト上の契約申込を受け付ける場合には、ウェブサイト上に解約申出のフォーマットを設けること)を義務付けるべきである。
(7)決議の第7項(定期購入契約の中途解約権)について
定期購入商法は、いったん取引に入った消費者を囲い込んで逃げられないようにして、中途解約を認めないところに特徴がある。そこで、この囲い込みに対処することができるよう中途解約権の確保を導入することも、定期購入に対する有効な対処方法となると考えられる。
とりわけ、定期購入商法における取引対象が健康食品・化粧品等の場合、その効果・効能や副作用の確認には実際に使用してみることが不可欠であるほか、契約期間が一定程度長期にわたるため、消費者の側に事情変更が生じうるという特質がある。このように商品の内容の不透明さ、将来における事情変更の可能性や身体に対する有用性の不確実さにもかかわらず、長期の契約に拘束される不都合があるという特徴は、特商法で規制されている特定継続的役務提供にみられるのと同様の特徴である。
したがって、定期購入について、特定継続的役務提供と同様に、将来に向けての契約の中途解約権(特商法第49条第1項)を付与するとともに、中途解約の際に事業者が消費者に対して請求し得る損害賠償等の上限額(特商法第49条第2項)を定める立法がなされるべきである。
中途解約権の付与は、消費者が誘引された広告表示の方法や内容をいちいち確認する必要なしに定型的一律に救済を図ることのできる事後的救済措置であり、「詐欺的な定期購入商法」の手口に対しても有効であると考えられる。
以上の理由から、本決議を提案するものである。
以上