中弁連の意見
本年3月2日に国会に上程された「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」は,現在継続審議となっている。
本法案は,いわゆる弁護士報酬敗訴者負担制度を導入することを目的としたものであり,日本弁護士連合会は,経済的・社会的弱者による裁判の利用を委嘱させ,「市民に利用しやすい司法の実現」という司法改革の理念に反するとして,この制度の一般的導入に強く反対してきた。
ところが,司法改革推進本部は,司法アクセス検討会の最終段階である2003年12月において,突然に,弁護士報酬の各自負担を原則的に維持しつつも,訴訟提起後に双方の当事者に代理人がついて共同の申立がなされた場合に限って弁護士費用の一部を訴訟費用にするという合意による敗訴者負担制度(以下,「合意制」という)導入の意見をとりまとめた上法案化した。
しかしながら,当該法案では,勝敗の見通しがつきにくいほとんどの訴訟において,新たに合意による敗訴者負担制を選択するかどうかという困難な選択を当事者に迫ることになり,いたずらに訴訟利用者の判断を攪乱させ,訴訟制度への信頼を損ないかねない。また,勝訴確実と考えた側が敗訴者負担を求めたとしても相手方がこの求めに応じることは殆ど考えられないから,弁護士報酬を敗訴者負担にすることはできず,上記実現本部が求めていた司法アクセス促進にはならない。また,敗訴者負担導入論の根拠となっていた敗訴当事者に勝訴当事者の弁護士報酬を負担させるのが公平だとの見解に応えるものでもない。敗訴者負担制度の弊害は,「合意制」によっても何ら解消されないのである。
さらに,「合意制」が導入されれば,裁判外での私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」を記載することが広がっていくことが懸念される。消費者,労働者,中小零細業者など契約上弱い立場にある者は,このような記載があっても契約せざるを得ず,その結果,紛争が生じたときには,敗訴したときの費用負担を恐れて訴訟の提起のみならず受けて立つことすら躊躇する可能性が強い。結果として,「合意制」の一般的な導入は,弱い立場にある市民の司法アクセスに重大な萎縮効果を及ぼす危険が高い。
したがって,中国地方弁護士会連合会は,敗訴者負担制度の導入を内容とする前記法案に強く反対する。また,万一導入するとしても最低限以下の立法上の措置を講ずることを強く要求するものである。
- 消費者訴訟,労働訴訟,一方の取引上の地位が他方に優越している事業者間の訴訟においては,「合意制」を適用しないこと。
- 消費者契約,労働契約(労働協約,就業規則を含む),一方の取引上の地位が他方に優越している事業者間の契約に盛り込まれた敗訴者負担条項は無効とすること。
2004年(平成16年)9月1日
中国地方弁護士会連合会
理事長 津村 健太郎