中弁連の意見

 平成27年6月17日、選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法等の一部を改正する法律が成立し、同法附則11条で「少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする。」とされた。また、同法成立に先立ち、自由民主党は、成年年齢に関する特命委員会を設置し、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げることを検討している。

 しかしながら、少年法における「成人」年齢は、以下に述べる理由により、18歳未満に引き下げられるべきではない。

 

  1.  そもそも、法律の適用年齢は、各法律の目的や立法趣旨ごとに個別に検討されるべきものである。具体的には、選挙権年齢は何歳以上の国民の意思を政治に反映させるべきかという問題であるのに対し、少年法の適用年齢は罪を犯した若年者に国がどのような処遇をもって臨むのかという問題であり、全く別の検討を要する。したがって、公職選挙法の選挙権年齢と少年法の適用年齢を統一させなければならないものではない。
     
  2.  少年法は、人格形成途上にある若年者の犯罪は、本人の資質と家庭等の環境の影響が大きいことから、再犯防止のためには刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨(保護処分優先主義)に基づき規定されている。1948(昭和23)年に制定された現行少年法が、適用年齢を旧少年法の18歳未満から20歳未満に引き上げたのも、上記立法趣旨に基づく。
     現代の若年者は、身体的には早熟傾向にあるものの、精神的・社会的自立が遅れたり、人間関係をうまく築けなかったりする傾向にあることが指摘されている(2008(平成20)年9月30日付法制審議会民法成年年齢部会第8回会議配付資料32等)。また、現代の若年者の犯罪の背景には、虐待や家庭の貧困等の環境の影響が少なからず見受けられる。
     したがって、現代においても、現行少年法制定当時と同様、18歳及び19歳のいわゆる年長少年を保護処分優先主義から除外すべき立法事実は存在しない。むしろ、18歳及び19歳の犯罪についても、全件家庭裁判所に送致され、専門的知識を有する家庭裁判所調査官による少年の成育歴等に踏み込んだ社会調査、少年鑑別所での心身鑑別、付添人による援助等を踏まえ、少年の要保護性に応じ、保護観察、少年院送致等の多様な終局処分を選択しうる現行少年法の保護処分優先主義が、再犯防止に資するといえる。
     
  3.  一方、刑事手続においては、多くの事件が起訴猶予や略式命令による罰金刑で終了しており、現行少年法制に比較すると、更生及び再犯防止に向けた関わりが限定的である。
     仮に、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げた場合、全少年被疑者の約43%を占める18歳及び19歳の少年から、社会調査、心身鑑別、それに基づく環境調整や教育的働きかけを受ける機会を奪い、大半の事件を検察官の訴追裁量に基づく起訴猶予や罰金刑で終了させてしまうことになる。そうすると、18歳及び19歳の少年は、その抱える問題を解消されることのないまま、再び社会生活を送らざるを得ず、その結果再犯のリスクが高くなり、ひいては社会の安全を揺るがすことになりかねない。
     
  4. 少年法の適用年齢引下げの理由として、少年犯罪の増加・凶悪化を挙げる意見も見られる。しかし、少年による刑法犯の検挙人員は、1983(昭和58)年には31万7438人であったが、2013(平成25)年には9万413人まで減少し、殺人事件(未遂を含む)の検挙人員も、昭和30年代には400人を超えていたのが、2013(平成25)年には55人まで減少しており、その減少率はいずれも少年人口の減少率を上回っている。
     このように、少年犯罪の増加・凶悪化の事実はなく、これを少年法の適用年齢の引下げの理由とすることはできない。
     
  5.  現行少年法は、重大事件を起こした少年に対して甘すぎるという意見もある。しかし、現行少年法においても、重大事件については、検察官送致となり、成人と同じ刑事裁判を受けることが可能であり、重大事件を起こした少年の多くが公開法廷で刑事裁判を受け、刑罰を受けているのであって、現行少年法が甘すぎるという指摘はあたらない。
     また、少年に対する刑事処分については、2014(平成26)年5月に不定期刑の長期と短期の上限を引き上げるなどの法改正がなされたばかりであり、まだその検証もされていない現段階で、さらに少年法の適用年齢を引き下げる改正を行うのは相当でない。
     
  6.  さらに、諸外国に目を向けると、以下の事実も認められる。
     1990年代に少年に対する成人刑事罰が大幅に強化された米国の実証的研究によれば、少年に刑罰を科すことによる一般予防の効果が不確かであること、また、特別予防についてはむしろ逆効果であること、特に暴力事犯では刑事処分を受けた少年の再犯率がかえって高いことが指摘されており、2000年代からは厳罰化を見直す動きも始まっていると報告されている(『家庭裁判月報平成22年6月第62巻第6号』35頁以下参照)。
     また、ドイツの連邦司法省の再犯統計によると、若年者の再犯率は、少年刑法により有罪の言渡しを受け刑を執行されて釈放された場合が高く、逆に刑事手続を打ち切り、教育的措置を行った後は低下するという結果が出ている。
     少年法の適用年齢の引き下げは、これら諸外国の実証的研究の成果やそれを受けた厳罰化を見直す国際的な潮流に真正面から逆行するものである。

 

  以上のとおり、少年法の適用年齢の引下げは、立法事実による裏付けを伴わないだけでなく、少年法の目的を損なうおそれ、重大な弊害をもたらすおそれがあるものであり、当連合会は強く反対する。

以上