中弁連の意見

中国地方弁護士会連合会に所属する全ての弁護士会会長と共に訴える。

本年2月24日以来、今日も、ロシア連邦・プーチン政権による国連憲章・国際法に反する侵攻によって、ウクライナでは無辜の市民が殺されている。人々が生活していた民家やアパート、たくさんの患者が病気や傷を癒していた病院、子どもたちが机を並べて毎日勉強していた学校が、ミサイルの砲撃にさらされ、がれきの山と化した。日常生活が奪われ、老人、女性、こどもの命が失われている。このようにウクライナでは、国際人道法の基本原則である軍事目標主義に反し、人々の平和的生存が侵害されている。
国連は本年3月2日、ロシア連邦によるウクライナ侵攻を受けて緊急の国連総会を開催し、ロシア連邦に対して軍事行動の即時停止を求める決議案を141カ国の圧倒的賛成多数で採択し、「即時に完全かつ無条件で、国際的に認められたウクライナの領土から全ての軍隊を撤退させるよう」要請している。

ウクライナは、ソ連時代の1986年にチェルノブイリの原子炉爆発の被害を経験し、たくさんの人々が被ばくし傷ついた地である。今もチェルノブイリ原発は廃炉作業の目途はたっていない。ソ連時代の経験から、放射能の危険性を知っているにもかかわらず、ロシア連邦はこのチェルノブイリ原発を占拠し、廃炉作業を維持するための送電線を破壊し、また、南部のザポリージャ原発を攻撃する事態に至っている。

一方、わたしたちの中国地方は、1945年8月6日にアメリカ軍によって原子爆弾の爆撃を受け、同年のうちに14万人以上の人々が死亡したと推定されている広島を含む地方である。原子爆弾は、人の姿が消失するほどの熱線、激しい爆風、炎によって、多数の人々の命を一瞬にして奪った。広島の街は、水を求めてさまよう人々で、地獄絵図となった。また、そののちも、火傷や放射線による後遺症が残り、被ばく者の苦しみは、現在まで続いている。家族や友人の命が失われたが、骨も戻ってこないという遺族も数え切れず、その悲しみも、生涯消えることはない。

 

核兵器禁止条約の前文には「核兵器の壊滅的な結末には、十分に対応することができず、国境を越え、人類の生存、環境、社会経済開発、世界経済、食糧安全保障並びに現在及び将来の世代の健康に重大な影響を及ぼし、及び電離放射能線の結果によるものを含め女子に対し均衡を失した影響を与える」とある。これは、広島や長崎の甚大な被害の経験に基づく言及である。

1992年、広島を訪問したソ連(当時)のミハイル・ゴルバチョフ大統領も「歳月がヒロシマの悲劇の痛みを和らげることはできませんでした。このことは決して繰り返してはなりません。私たちは原子爆弾の犠牲者のことを決して忘れてはなりません。」と述べている。

しかるに、本年2月27日、プーチン大統領は今回のウクライナ戦に関して、核兵器による威嚇、使用の可能性についても言及した。その後も、ロシア連邦の要人は、同様の発言を繰り返している。

このようなロシア連邦の核兵器使用の可能性に関する脅迫的な発言、原子力発電所への攻撃は、77年前の核兵器による被害に未だに多くの被爆者が苦しんでいる広島のことを思うと、到底、容認することはできない。わたしたちは、万感の怒りをこめて、ロシア連邦に抗議する。

2021年11月26日、中国地方弁護士会連合会は「核兵器禁止条約の署名・批准を求める決議」を採択した。今こそ、日本政府は核兵器禁止条約に署名・批准すべきである。そして、日本が、世界の先頭に立って、ロシア連邦に対して、核兵器による威嚇や原子力発電所に対する攻撃を直ちに中止するように説得すべきである。そのことが、世界で唯一、核戦争による甚大な被害を受けた日本の使命であると信ずる。

 

2022年(令和4年)3月26日

中国地方弁護士会連合会理事長 足立 修一
広島弁護士会会長  池上  忍
山口県弁護士会会長 末永 久大
岡山弁護士会会長  則武  透
鳥取県弁護士会会長 佐野 泰弘
島根県弁護士会会長 古津 弘也